相続税更正処分等取消請求事件論点整理表東京地裁平成30年月24日判決
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第3 当裁判所の判断 |
1 本件訴えのうち,本件通知処分の一部の取消しを求める部分の適法性について増額更正処分は,課税庁が課税要件事実を全体的に見直し,申告又は従前の更正 処分に係る税額を含めた全体としての税額を総額的に確定する処分であるから,申告又は従前の更正処分に係る税額を減額しない旨の判断を含むものであり,当該従前の税額についての更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分があった場合には,その内容を包摂するものである。 したがって,同一の申告又は従前の更正処分に係る税額について更正をすべき理由がない旨の通知処分と増額更正処分とがされた場合には,税額を争う納税者は,増額更正処分の取消訴訟をもって争えば足り,これと別個に通知処分を争う利益を有しないものと解すべきである。このように解することが,同一の相続税の納税義務に関わる両処分の取消訴訟が別個に係属することにより生ずる審理判断の重複抵触を避けるためにも相当である。また,このように解しても,増額更正処分の内容は,通知処分の内容を包摂する関係にあるのであるから,通知処分の不服申立期間や出訴期間が経過してその取消しを求めることができなくなった後に増額更正処分がされた場合でない限り,増額更正処分の取消訴訟の中で,通知処分における更正をしない旨の判断に存する違法を主張して,申告又は従前の更正処分に係る税額を下回る額にまで増額更正処分の取消しを求めることもできるものと解されるから,納税者に不利益が生ずるものではない。 したがって,本件訴えのうち,本件通知処分の一部の取消しを求める部分は,訴えの利益を欠き,不適法である。 2 本件更正処分の適法性について (1)相続税法は,相続税について,55条で,国家の財源である税収を迅速・確実に確保する観点から,遺産分割が未了であっても,相続人は民法の規定による相続分の割合に従って財産を取得したものとしてその課税価格を計算して申告すべきこととした上で,32条1号で,後に遺産分割が行われ,財産の取得状況が変化し,申告又は従前の更正処分に係る課税価格及び相続税額が過大となった場合には,国税通則法23条1項の特則として,同号の後発的事由に基づく更正の請求を認めたものと解される。 したがって,相続税法32条1号に基づく更正の請求においては,原則として,遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由,すなわち,申告又は従前の更正処分における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等を主張することはできないものと解され(ただし,遺産分割による財産の取得状況の変化により,個々の財産の価額が変化するといえる場合には,この変化は主張し得るものと解される。),その結果として,同号に基づく更正の請求上,課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は,まずは申告における価額となるというべきであり,また,その後に更正処分があった場合で,申告における価額のうち,当該更正処分によって変更された価額があるときには,その価額を基礎にすべきであると解される。 また,相続税法35条3項は,相続税について,一部の相続人からの同法32条1号の更正の請求に基づき減額更正処分がされた場合において,その余の相続人について,当該減額更正処分の「基因となった事実を基礎として計算」した課税価格及び相続税額が申告又は従前の更正処分における金額と異なることとなったときには,当該相続人に対して更正処分をする旨を定めており,その規定振りからすれば,同項に基づく更正処分における課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額もまた上記と同様に解するべきである。 (2)もっとも,本件のように,相続税の申告の後に個々の財産の価額を変更する更正処分がされた上,当該更正処分の取消しの訴えが当該申告をした相続人によって提起され,個々の財産の評価方法ないし価額が争点となり,判決がこの点について認定・判断をし,課税価格及び納付すべき税額につき当該更正処分における金額と異なる金額を認定して,当該更正処分の一部を取り消すこととなった場合には,後の相続税法32条1号に基づく更正の請求又は同法35条3項に基づく更正処分の際の計算において,従前の更正処分における個々の財産の価額のうち判決によって変更を受けたものをそのまま計算の基礎にすべきではないのはもちろんであるが,かといって,当該価額を申告における価額と置き換えることも,当該価額が従前の更正処分によって変更を受けている以上,判決がその変更前の価額を相当とする旨を判示しているのでない限り,相当ではなく,根拠を欠くというべきである。この場合,課税庁としては,取消判決の説示に従い,改めて個々の財産の価額を変更する更正処分をしておくことが考えられるが,判決が確定した時点において更正処分の法定の制限期間が経過しているときには,そのような処理をすることができない。 上記のような場合には,争点となった個々の財産の評価方法ないし価額に係る認定・判断並びにこれらを基礎として算定される課税価格及び相続税額に係る認定・判断に,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断として,行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生じているということができる上(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照),後の相続税法32条1号に基づく更正の請求又は同法35条3項に基づく更正処分に係る事件についても,同一の被相続人から相続により取得した財産に係る相続税の課税価格及び相続税額に関する事件であることに変わりがない以上,行政事件訴訟法33条1項にいう「その事件」として,上記の拘束力が及ぶものと解するのが相当であって,従前の更正処分について,争点となり,その評価方法ないし価額が判決によって変更されるに至った個々の財産については,課税庁において,同判決における評価方法ないし価額を基礎として課税価格を算定しなければならないものというべきである。 以上を相続税法32条1号及び同法35条3項の条文に則して言えば,上記のような場合,同法32条1号の「共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格」については,個々の財産の価額につき,申告における価額に,従前の更正処分による変更に加え,更に上記の判決による変更を加えた上での価額を基礎として,当該分割後の課税価格を計算すべきであり,その結果,同号の「当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格」及び同条柱書きの「更正に係る課税価格及び相続税額」に相当する上記の判決による一部取消し後の従前の更正処分に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは,課税庁において,当該分割後の課税価格及び相続税額に基づいて,同号の更正の請求に対する減額更正処分をすべきことになると解される。また,同法35条3項に基づく更正処分においても,同法32条1号の更正の請求に基づく減額更正処分の「基因となった事実を基礎として計算」する以上,同様に,上記の各変更後の個々の財産の価額を基礎として「その者に係る課税価格又は相続税額」を計算し,その結果として,「更正に係る課税価格又は相続税額」,すなわち,上記の判決による一部取消し後の従前の更正処分に係る課税価格又は相続税額がこれと異なることとなる場合に, それに応じた更正処分が可能になるものと解される。 (3)前記前提事実によれば,本件では,本件各株式の価額について,本件申告においては別表1の本件申告欄記載のとおりとされていたのが,前件更正処分において同表の前件更正処分欄記載のとおりに変更された上で,さらに,前件判決において,このうち争点となっていた株式会社A工業所及びB株式会社の各株式の価額について同表の前件判決欄記載のとおりに変更されたものである。ただし,そのうちB株式会社の株式の価額については,前記前提事実のとおり,争点となっていた株式会社A工業所の株式の評価方法ないし価額に係る説示を前提に,正しく計算をすれば,同表の本件更正請求欄記載のとおりの額とされるべきものであったものであり(民事訴訟法257条の更正決定の対象になり得るものといえる。),この点の拘束力は,上記の計算違いによる金額についてではなく,上記の説示における評価方法に基づいた正しい計算による金額について生ずるというべきであるから、同表の本件更正請求欄記載の額をもって,同社の株式の価額とするのが相当である。 したがって,結局,本件各株式のうち,株式会社A工業所の株式の価額については,同表の前件判決欄記載の1株当たり4653円,B株式会社の株式の価額については,同表の本件更正請求欄記載の1株当たり1万9132円,その他の会社の株式の価額については,同表の前件更正処分欄記載の各価額が前件判決でも維持されているものとして(以上はいずれも同表の本件更正請求欄記載の額と同額となる。),相続税法32条1号及び35条3項の計算をするのが相当である。 そして,以上の各価額を前提に計算をすれば,本件相続に係る原告の納付すべき相続税額は,原告の主張する別表4A−1の〔14〕欄記載の4億4689万9300円となることについては当事者間に争いがないから,本件更正処分は納付すべき税額が4億4689万9300円を超える部分について違法な処分として取消しを免れない。 3 以上の次第で,本件訴えのうち本件通知処分の一部の取消しを求める部分は不適法であるからこれを却下し,本件更正処分の一部の取消しを求める請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用については,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 |
論点整理表 東京高裁令和1年12月4日判決
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第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、本件通知処分取消請求に係る訴えは適法で、その請求は理由があるから認容すべきであり、本件更正処分取消請求は本件申告時納付税額を超える部分を取り消す限度で理由があるから認容すべきものと判断する。その理由は、後記2以下に述べるとおりである。 2 本件通知処分取消請求に係る訴えの適法性(訴えの利益があるか)について (1)本件通知処分と本件更正処分の各取消請求につき、原判決は、増額更正処分は、従前の税額についての更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分の内容を包摂するから、本件通知処分取消請求に係る訴えは訴えの利益を欠き不適法である旨判示したのに対し、控訴人は、本件通知処分は本件更正処分と別個に争う利益がある旨主張する。 (2)ア この点につき、通知処分及び増額更正処分の内容等に鑑みれば、増額更正処分は通知処分を包摂するものではなく、本件通知処分取消請求に係る訴えは、訴えの利益があり、適法であると解される。 イ(ア)すなわち、詳細は後記3(1)アに説示するが、相続税について、相続人は、遺産分割終了前であっても所定の申告期限までに法定相続分に従って課税価格を計算して申告しなければならないところ、申告後の遺産分割により取得した遺産に係る課税価格が上記計算による課税価格と異なる場合、相続人は、遺産分割の内容に従って課税価格の計算を見直し、それに基づいて更正の請求(相続税法32条1号)をすることができる。そして、本件通知処分は、被控訴人が納税額の減額を求める旨の更正の請求に対し、課税庁において、請求者(被控訴人)に係る課税標準等又は税額等を全体的に見直した上で、更正請求には理由がない(減額更正をすべきでない)として更正請求を拒否する旨の判断を示したものである。仮に上記見直しにより算出した税額が申告額より多額になるとしても、通知処分がされただけでは、上記の算出した額が納付すべき税額として確定されるものではなく、納付すべき税額は申告により確定した額のままである。 (イ)他方、課税庁は、同条1号ないし5号による更正の請求に基づき更正をした場合、当該相続に係る他の相続人につき同法35条3項各号の事由があるときは、法定の期間内に、その者に係る課税価格又は相続税額の更正等をするところ、本件更正処分は、課税庁が、二女らに対する減額更正処分に伴い、同項に基づいて行ったものである。本件更正処分(増額更正処分)は、課税標準や税額等を増額変更する処分であって、それにより納付すべき税額を確定する効果を有する。 (ウ)このように、通知処分と増額更正処分とは、内容や効果が異なるものであり、更正請求を受けた課税庁が納付すべき税額は申告額より多額であると判断した場合、課税庁はその額を納付すべき税額として確定する増額更正処分のみすればよいとされているわけではないし、通知処分が後の増額更正処分に吸収される旨を定めた規定もない。 したがって、増額更正処分の取消しを求める訴えにおいて、申告税額を超える部分の取消しのみならず申告税額と更正の請求に係る税額との差額部分についても取消しを求めることができると解することは困難であり、これを可能とするような規定も見当たらない。 ウ 以上によれば、本件においては、本件更正処分のみ取消訴訟の対象とすれば足りるということはできず、本件通知処分取消請求に係る訴えについて訴えの利益が認められるというべきである。なお、通知処分と増額更正処分とで別個に争えるとする場合の判断の矛盾・抵触については、請求の併合(行政事件訴訟法13条、16条、19条)や口頭弁論の併合(同法7条、民事訴訟法152条1項)によって適切に対応することが可能であり、上記判断を妨げるものではない。 (3)ア したがって、本件通知処分取消請求に係る訴えには訴えの利益がなく不適法であるとして却下した原判決は不当であり取り消すべきであるところ、訴えを不適法として却下した第一審判決を控訴審裁判所が取り消す場合、原則として事件を第一審裁判所に差し戻さなければならないが、事件につき更に弁論をする必要がないときは、この限りでないとされている(民事訴訟法307条本文及びただし書)。 イ 本件においては、控訴人及び被控訴人のいずれも、原審において、本件通知処分が違法かどうかについて、併合請求である本件更正処分取消請求に係る同処分についてと同様の主張をし、同請求において、実体的審理が尽くされて判断が示されており、当審において改めて本件通知処分の違法性についてのみ更に主張・立証を尽くさせるため弁論をする必要はない。したがって、当審において、本件通知処分の取消請求に係る訴えが適法であることを前提に、その請求の当否についても判断することができ 3 相続税法32条1号及び同法35条3項の解釈(本件更正請求等において、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由(本件申告又は従前の更正処分において個々の財産の価額に誤りがあり、前件判決が判断した評価方法ないし価額を用いるべきこと)を主張することができるか)について(1)ア 相続税については、相続等による財産の取得の時に納税義務が成立し、遺産分割が終わっていなくても、相続人は、所定の申告期限までに、法定相続分に従って財産を取得したものとしてその課税価格を計算して申告すべきこととされ、納税者の申告に基づいて具体的な納税義務が確定するとされている(国税通則法15条2項4号、16条1項1号、2項1号(申告納税方式)、相続税法55条)。このように、相続税も含め、申告納税方式に係る国税について、税額の確定は第一次的には納税者の申告書の提出によりされることとしているのは、国家の財源である税収を迅速・確実に確保するためであり、申告書提出期限経過後も自由に増減額できるとすると、申告期限の意味を失わせ、申告納税方式の趣旨に反することになる。 申告の内容が適正でなかった場合、納税者の負担の公平を図るため、これを適正な税額に訂正する必要があるところ、国の権能において、その調査したところにより、申告によって確定している税額等を変更(更正)させるとされており(国税通則法24条)、また、納税者は、申告書提出当時内在していた誤りについては当時十分検討すれば当然発見できたものであるから、国税通則法は、権利救済の一環として、納税申告書を提出した者が、その申告に係る税額が過大であること等を知った場合には、法定申告期限から5年以内に限り税務署長に対してその税額等につき更正をすべきことを請求することができるとし(同法23条1項)、法定申告期限当時に内在していなかった減額要因(後発的事由)が後日発生した場合については、後発的事由が発生してから2か月(相続税法については4か月)以内に限り、特に更正の請求を認めることとした(同条2項)。 他方、相続税については、遺産分割が終わっていなくても法定期限までに申告しなければならないことから、申告後に遺産分割が行われると、申告時とは財産の取得状況が変化し、申告又は従前の更正処分に係る課税価格及び相続税額が過大となることがある。この点につき、昭和33年法律100号による改正前の相続税法においては、遺産取得税方式(相続人の取得した遺産額を課税標準とする方式)が採られていたが、同方式では租税負担能力に応じた課税が可能となる反面、分割を仮装して申告が行われたり、農業等の分割困難な遺産がある場合に相続税負担が相対的に高くなったりするなどの問題があったことから、同改正において、遺産課税方式の長所も取入れることとし、相続開始後10か月以内に、遺産分割が行われていなくても各相続人の法定相続分に応じて遺産を相続したものとして課税価格を計算して申告させ、後日これと異なる割合で遺産分割が行われた場合には、その分割された内容に従って課税価格の計算をやり直して、申告書の提出、更正の請求等をすることができるとした。すなわち、相続税法32条1号は、国税通則法23条1項1号の特則であり、相続税に固有の後発的事由(遺産分割)を理由に、国税通則法の定める更正の請求の期限後においても特例的に更正の請求を認めたものである。 したがって、相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由、すなわち、申告又は従前の更正処分における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等を主張することはできないものと解され、その結果として、同号に基づく更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は、まずは申告における価額とし、その後に更正処分があった場合で、申告における価額のうち当該更正処分によって変更された価額があるときには、その価額を基礎にすべきであると解される。 また、同法35条3項は、更正の特則として、相続税について、一部の相続人からの同法32条1号の更正の請求に基づき減額更正処分がされた場合において、その余の相続人について、当該減額更正処分の「基因となった事実を基礎として計算」した課税価格及び相続税額が申告又は従前の更正処分における金額と異なることとなったときには、当該相続人に対して更正処分をする旨を定めており、その規定振りからすれば、同項に基づく更正処分における課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額もまた上記と同様に解するべきである。 イ そうすると、本件のような申告後に更正処分の取消訴訟において遺産の評価が改められたという事情は、本来、申告時に内在していた事情であって、相続税固有の後発的事情とはいえず、相続税法32条各号にこれに当たるような事由は規定されていない。 したがって、本件各株式の評価方法及び価額に係る前件判決の判断を理由に、同条1号に基づいて更正請求をすることはできないと解するのが相当である。 また、本件更正処分の根拠である同法35条3項も相続税特有の後発的事由(遺産分割)を理由に増額更正することを認めたものと解されるから、同項による増額更正処分が違法であると主張してその取消しを求める場合も、同法32条1号に基づく更正請求についてと同様、相続に固有の後発的事由を原因としない事情を違法の理由として主張することはできないと解される。 (2)ア この点につき、被控訴人は、相続税法32条1号に基づく更正請求によって、個々の財産評価の誤り等を主張できる旨主張する。この被控訴人の主張は、相続税は、遺産取得課税方式を基本とし、申告では課税価格等を算定する過程で用いられる遺産の評価等については確定しないし、遺産分割後の更正請求は新たな申告ということができ、改めて遺産につき適法な評価等を基に課税価格や納付すべき税額を計算することができるのであって、それによる更正決定により税額が確定するといった解釈を前提とするものと考えられる。 イ 日本の相続税については、遺産取得課税方式を基本としつつ(その旨、税制調査会議事録(甲13)、参議院財政金融委員会会議録(乙45)等に現れている。)、併用方式(相続税の総額を法定相続人の数と法定相続分によって算出し、各人の取得財産額に応じて課税する方式)とされているが、相続税法32条1号による更正請求や同法35条3項に基づく更正処分の取消請求において、個々の財産評価の誤り等を主張できるかどうかは、相続税につき、いかなる事由に基づいて更正請求が認められるかに係る問題であるから、遺産取得課税方式が基本であることからただちに上記更正請求や取消請求において遺産分割による財産の取得状況の変化以外の事由を主張できると解するのは困難である。 また、相続税が、申告により一旦確定すると解されることは前記(1)アにおいて説示したとおりである。被控訴人は、申告により確定するのは納付すべき税額等や課税標準等であって、遺産の評価は確定しない旨主張するが、遺産の評価が変われば納付すべき税額等も変わり得るのであって、被控訴人の上記主張は、申告により納付すべき税額等も一旦確定していることを否定するに等しく、採用することはできない。 さらに、被控訴人は、上記(1)において説示した考え方は被控訴人に遺産の本来の価額に比して過大な負担を課すことになり不公平であると主張するが、負担が生ずるとしてもこの点は、上記のとおり、国税通則法及び相続税法において、更正をし得る期間や事由が定められていることによるものであり、やむを得ないというべきである。もっとも、本件においては、後記4のとおり、前件判決の拘束力に基づき、本件更正処分等が違法であるとして取消請求が認められるのであり、結果的にではあるが、被控訴人の主張する上記不公平は生じないことになる。 以上によれば、相続税法32条1号及び同法35条3項の解釈に係る被控訴人の主張を採用することはできない。 |
4 前件判決の拘束力(前件判決の拘束力は本件更正請求等に及ぶか、前件判決のうちいかなる判断に拘束力が生じるか)について (1)前記3において説示したとおり、本件更正請求等において、相続税法32条1号や同法35条3項に基づいて、個々の財産の評価方法ないし価額の誤りや前件判決によって変更を受けた財産の価額を用いることはできない。しかし、以下に説示するとおり、本件更正処分等は、前件判決における本件各株式の評価方法ないし評価額に拘束され、その結果本件更正請求等は違法となるものと解される。 (2)ア 行政処分を取り消す判決は、「その事件」について、当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束するとされる(行政事件訴訟法33条1項)。同項による拘束力は、取消判決の実効性を確保するために付与されたもので、行政庁に、処分又は裁決を違法とした判決の判断内容を尊重し、「その事件」について判決の趣旨に従って行動し、これと矛盾する処分等がある場合には、適切な措置をとるべきことを義務付ける効力であるから、訴訟における訴訟物に係る裁判所の判断について生じる既判力と異なり、主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断(理由中の判断)について生じるものと解される(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。このような拘束力の具体的内容に鑑みれば、同項にいう「その事件」とは、取消判決に係る行政処分の対象である法律関係と解するのが相当である。 イ これを本件についてみると、前件判決(に係る前件更正処分)と本件更正処分等は、いずれも本件被相続人の遺産に係る被控訴人が納付すべき相続税の課税という同一の法律関係に係るものであるから、本件更正処分等は、前件判決との関係で「その事件」に該当すると認めるのが相当である。 (3)ア そして、上記(2)アのとおり、取消判決の拘束力は、主文を導くのに必要な事実認定及び法律判断(理由中の判断)について生じるものであるところ、取消訴訟の訴訟物は、行政処分の違法一般であると解されているから、当該取消訴訟の対象である処分について、その根拠法規が定める各適法要件についての該当性、すなわち当該処分が各適法要件を充足しているということは、訴訟物に含まれ、各適法要件該当性に係る判断を導くのに必要な理由中の事実認定及び法律判断について拘束力が生じるというべきである。 イ これを本件についてみると、前件訴訟は、被控訴人及び他の共同相続人の一部が、前件更正処分につき、A及びBの各株式の価額の評価等を争ってその取消しを求めた事案であり、主な争点は、Aが株式保有特定会社に該当するかどうか並びにこれを前提とするA及びBの各株式の時価の評価方式及び価額であって、前件判決は、Aは株式保有特定会社に該当するものといえず、原則的評価方式である類似業種比準方式によって評価するのが相当であって、そうするとA株式は1株当たり4653円であり、B株式は、その資産であるA株式の評価が上記のとおりであることを基に所定の計算をすると、1株当たり3万1189円となるとし、これらの評価(その他の株式については前件更正処分における価額と同額)を用いて各相続人が納付すべき相続税額を計算し、それが本件申告において申告した納付すべき税額の範囲内であるから、前件更正処分は、本件申告に係る各納付すべき税額を超える部分が違法であると判断した(前提事実(5)ないし8))。すなわち、前件判決は、遺産である本件各株式の評価方法について判断し、それを用いて算出する価額(ただし、B株式については更正決定の対象となり得る明らかな違算がある。)に基づき、納付すべき税額を算出して、上記判断を導いたものである。そうすると、前件判決において、前件更正処分が適法かどうかに係る主文の判断は、租税法規に従って客観的に算定した課税価格及び相続税額がいくらかによるが、これは適法要件に該当するかどうかの問題であり、この適法要件に該当するかどうかについての結論を導くのに必要な事実認定及び法律判断は、まずは税額の計算の基礎となった遺産の価額についてされるものであるところ、価額は評価方法に沿って計算すれば正しい数値が算出されるものであり、逆に計算を誤れば正しい数値が算出されないことからすれば、評価方法ないし価額に係る判断に拘束力が生じると解するのが相当である。 したがって、前件判決の判断のうち、争点となった個々の財産の評価方法ないし価額に係る判断並びにこれらを基礎として算定される課税価格及び相続税額に係る判断に拘束力が生じ、課税庁において、前件判決における評価方法ないし価額を基礎として課税価格を算定しなければならないものというべきである。そうすると、相続税法32条1号の「共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格」については、個々の財産の価額につき、申告における価額に、従前の更正処分による変更に加え、更に上記の判決による変更を加えた上での価額を基礎として、当該遺産分割後の課税価格を計算すべきであり、その結果、同号の「当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格」及び同条柱書きの「更正に係る課税価格及び相続税額」に相当する上記の判決による一部取消し後の従前の更正処分に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、課税庁において、当該遺産分割後の課税価格及び相続税額に基づいて、同号の更正の請求に対する減額更正処分をすべきことになると解される。また、同法35条3項に基づく更正処分においても、同法32条1号の更正の請求に基づく減額更正処分の「基因となった事実を基礎として計算」する以上、同様に上記各変更後の個々の財産の価額を基礎として「その者に係る課税価格又は相続税額」を計算し、その結果として、「更正に係る課税価格又は相続税額」、すなわち、上記の判決による一部取消し後の従前の更正処分に係る課税価格又は相続税額がこれと異なることとなる場合に、それに応じた更正処分が可能になるものと解される。 (4)ア この点につき、控訴人は、当該処分が取り消された処分とは異なる独自の判断要素を含む場合は「その事件」に当たらないと主張する。 しかし、本件更正処分等において前件判決の対象である前件更正処分と異なる独自の判断要素というのは、むしろ遺産分割があったこととみるべきであって、前件訴訟でも本件でも争われているA及びBの各株式の評価方法ないし価額について前件更正処分と異なる独自の判断要素があるわけではないから、控訴人の上記主張は本件更正処分等が前件訴訟との関係で「その事件」に該当することを否定し得るものではない。 イ(ア)また、控訴人は、〔1〕課税庁には前件判決により変更された本件各株式の価額に基づき計算された相続税額を超える部分を不整合処分として取り消す義務はないし、〔2〕本件各株式の評価誤りは、相続税法32条1号の更正事由に該当せず、国税通則法23条の更正事由には該当するものの、除斥期間を徒過しており、前件判決における本件各株式の評価方法ないし価額に拘束されるとすると、課税庁に実体法上の権限を超える行為を強いることになり、許されない、〔3〕単独相続等と比較しても公平を失すると主張する。 (イ)控訴人の上記主張の〔1〕、〔2〕は、要するに、課税庁は前件判決における本件各株式の評価方法ないし価額に係る判断を基に本件各処分等をする職務上の権限も義務もない旨主張するものと解される。 しかし、課税の適正を期するため,課税庁は、申告書の提出があった場合、その申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正することができるのであって(国税通則法24条)、更正は増額更正のみならず、減額更正もすることができる。そして、本件では、前記のとおり、遺産の評価方法ないし価額は国税通則法23条の更正事由に該当するところ、前件判決が確定した時にはその更正決定の除斥期間(同法70条)が経過していたが、前件判決によって課税庁の課税標準等の算出における評価方法ないし価額に誤りがある旨判断され、いわば上記除斥期間内に課税庁の更正の権限が適正に行使されていなかったことが明らかといえるにもかかわらず、租税債権・債務の早期確定の観点から除斥期間等を理由に権限も義務もないとして上記前件判決の判断の拘束力に従った対応を拒むのは、先行する取消訴訟の実効性を確保して行政の適正を図ろうとする拘束力の趣旨に反する。 (ウ)控訴人の上記主張〔3〕については、そもそも単独相続は、申告前に申告をする者が取得する遺産が確定し、その権利変動が予定されない点で本件のように申告後に遺産分割がされた場合と状況を大きく異にする。また、本件のように遺産分割前に申告をした場合は、申告の際は全ての遺産について法定相続分に応じて取得したとみなされて税額が計算されるから、一部の遺産の評価に誤りがあるとしても、それにより共同相続人間に不公平は生じないのに対し、遺産分割後の更正の請求や更正処分にあっては、申告等の際誤って高額に評価された遺産を多く取得した相続人が正しく評価されていた場合に比べて過大な負担を負い、他の相続人はそれを免れるという不公平が生じ得るのであり、前件判決の拘束力を肯定することによってこれを是正する必要性は大きい。したがって、単独相続の場合や申告期限までに遺産分割を終えた場合と比較して公平を失するとの控訴人の主張は採用することはできない。 ウ 控訴人は、その他るる主張して前件判決の拘束力を否定するが、いずれも採用することができない。 (5)以上によれば、本件更正処分等においては、本件各株式のうち、A株式について前件判決において認定された価額である1株当たり4653円(原判決別表1の前件判決欄参照)、前件判決の判断に違算があるB株式については、前記(3)イのとおり評価方法ないし価額についても拘束力が生じると解されるから、前件判決におけるAの株式の評価方法ないし価額に係る説示を前提に正しく計算した結果である1株当たり1万9132円(同表の本件更正請求欄参照。前提事実(8)。この計算違いについては、民事訴訟法257条の更正決定の対象になり得るものといえる。)、その他の会社の株式の価額については、同表の前件更正処分欄記載の各価額が前件判決でも維持されているものとして(以上はいずれも同表の本件更正請求欄記載の額と同額となる。)、相続税法32条1号及び35条3項の計算をするのが相当である。 そして、以上の各価額を前提に計算をすれば、本件相続に係る被控訴人の納付すべき相続税額は、被控訴人の主張する原判決別表4A−1の〔14〕欄記載の4億4689万9300円となることについては当事者間に争いがない。 したがって、本件通知処分については、納付すべき税額が4億4689万9300円を超える部分について違法な処分となり、本件更正処分については、申告額である10億7095万円を超える部分について違法となるから、それぞれ上記の限度で取消しを免れない。 5 以上によれば、被控訴人の請求のうち、本件通知処分取消請求に係る訴えは適法で、その請求には理由があり、本件更正処分取消請求は上記の限度で理由がある。そうすると、本件通知処分取消請求に係る訴えを却下し、本件更正処分取消請求を上記の限度を超えて認容した原判決は失当であり、控訴人の控訴及び被控訴人の附帯控訴は上記の限度で理由があるから、原判決をその旨変更することとし,主文のとおり判決する。 |
最高裁判決(令和3年6月24日判決)(上告人=国、被上告人=納税者)1、2、3(略) 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1)相続税額の計算は,〔1〕同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格(その者が当該相続等により取得した財産の価額の合計額)に相当する金額の合計額から基礎控除額を控除した金額を当該被相続人の民法所定の相続人が同法900条及び901条の規定による相続分に応じて取得したものとした場合における各取得金額に所定の税率を乗じて計算した金額の合計額である相続税の総額を算出した上で(相続税法16条),〔2〕これに,各相続人等に係る課税価格が当該財産を取得した全ての者に係る課税価格の合計額のうちに占める割合(以下「取得割合」という。)を乗ずることにより各相続人等に係る相続税額を算出するものとされている(同法17条)。 相続税の申告は,相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に行わなければならないものとされているところ(相続税法27条1項),遺産の全部又は一部が分割されていないときは,課税の遅滞を防止するなどの観点から,分割されていない財産については各共同相続人又は包括受遺者が民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算して申告をするものとされている(相続税法55条)。ただし,その後,当該財産の分割が行われ,当該分割により取得した財産に係る課税価格が民法の規定による相続分等に従って計算された課税価格と異なることとなったとの事由により上記申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは,上記申告を行った者は,当該事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り,更正の請求をすることができるものとされている(相続税法32条1号)。さらに,税務署長は,同号等の規定による更正の請求に基づき更正をした場合において,当該請求をした者の被相続人から相続等により財産を取得した他の者の申告に係る課税価格又は相続税額が当該請求に基づく更正の基因となった事実を基礎として計算した場合におけるその者に係る課税価格又は相続税額と異なることとなるとの事由があるときは,当該事由に基づき,その者に係る課税価格又は相続税額の更正をするが,この更正は,当該請求があった日から1年を経過した日と国税通則法70条の規定により更正をすることができないこととなる日とのいずれか遅い日以後においてはすることができないものとされている(相続税法35条3項1号)。 (2)このように,相続税法32条1号及び35条3項1号は,同法55条に基づく申告の後に遺産分割が行われて各相続人の取得財産が変動したという相続税特有の後発的事由が生じた場合において,更正の請求及び更正について規定する国税通則法23条1項及び24条の特則として,同法所定の期間制限にかかわらず,遺産分割後の一定の期間内に限り,上記後発的事由により上記申告に係る相続税額等が過大となったとして更正の請求をすること及び当該請求に基づき更正がされた場合には他の相続人の相続税額等に生じた上記後発的事由による変動の限度で更正をすることができることとしたものである。その趣旨は,相続税法55条に基づく申告等により法定相続分等に従って計算され一旦確定していた相続税額について,実際に行われた遺産分割の結果に従って再調整するための特別の手続を設け,もって相続人間の税負担の公平を図ることにあると解される。 以上によれば,相続税法32条1号の規定による更正の請求においては,上記後発的事由以外の事由を主張することはできないのであるから,上記のとおり一旦確定していた相続税額の算定基礎となった個々の財産の価額に係る評価の誤りを当該請求の理由とすることはできず,課税庁も,国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後は,当該請求に対する処分において上記の評価の誤りを是正することはできないものと解するのが相当である。また,課税庁は,相続税法35条3項1号の規定による更正においても,同様に,上記の評価の誤りを是正することはできず,上記の一旦確定していた相続税額の算定基礎となった価額を用いることになるものと解するのが相当である。 (3)処分を取り消す判決が確定した場合には,その拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により,処分をした行政庁等は,その事件につき当該判決における主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に従って行動すべき義務を負うこととなるが,上記拘束力によっても,行政庁が法令上の根拠を欠く行動を義務付けられるものではないから,その義務の内容は,当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られるものと解される。 そして,相続税法55条に基づく申告の後にされた増額更正処分の取消訴訟において,個々の財産につき上記申告とは異なる価額を認定した上で,その結果算出される税額が上記申告に係る税額を下回るとの理由により当該処分のうち上記申告に係る税額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した場合には,当該判決により増額更正処分の一部取消しがされた後の税額が上記申告における個々の財産の価額を基礎として算定されたものである以上,課税庁は,前記(2)において述べたところに照らして,国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後においては,当該判決に示された価額や評価方法を用いて相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をする法令上の権限を有していないものといわざるを得ない。 そうすると,上記の場合においては,当該判決の個々の財産の価額や評価方法に関する判断部分について拘束力が生ずるか否かを論ずるまでもなく,課税庁は,国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後に相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をするに際し、当該判決の拘束力によって当該判決に示された個々の財産の価額や評価方法を用いて税額等を計算すべき義務を負うことはないものというべきである。 (4)以上説示したところによれば,本件更正処分がされた時点で国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの)所定の更正の除斥期間が経過していた本件においては,江東東税務署長は,本件更正処分をするに際し,前件判決に示された本件各株式の価額や評価方法を用いて税額等の計算をすべきものとはいえず,本件申告における本件各株式の価額を基礎として課税価格及び相続税額を計算することとなるから,本件更正処分は適法である。なお,被上告人は,相続税の総額の計算においては本件申告における本件各株式の価額を用いるとしても,各相続人の取得割合の計算に当たっては前件判決に示された価額を用いるべきであるとも主張するが,前記(1)に述べたとおり,相続税法上,各相続人の取得割合の計算は,相続税の総額の計算と同様に課税価格に基づいてするものとされていること等からすれば,上記の主張は理由がない。 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨はこれと同旨をいうものとして理由がある。 また,相続税法55条に基づく申告の後に遺産分割が行われた場合における特定の相続人による同法32条1号の規定による更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分と当該相続人に対する同法35条3項1号の規定による増額更正は,前記4(2)に述べたとおり,いずれも当該遺産分割による各相続人の取得財産の変動という相続税特有の後発的事由を基礎としてされた同一相続人に対する処分であり,上記増額更正は,一旦確定していた税額を当該遺産分割が行われたことを理由に増額させて確定する処分であるから,当該遺産分割に伴い税額を減額すべき理由はないという上記通知処分の内容を実質的に包摂するものということができる。加えて,上記更正の請求がされているため,当該相続人は,上記増額更正の取消訴訟において,上記更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることが可能であると解される。そうすると,本件通知処分については,その取消しを求める利益はなく,本件訴えのうち本件通知処分の取消しを求める部分は不適法であるから,却下すべきである。 したがって,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れず,以上説示したところに従い,原判決を主文第1項のとおり変更することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 深山卓也 裁判官 池上政幸 裁判官 小池裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口厚) ➢判決概要 |