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誌上セミナー

<今月のテーマ>2021.03 令和3年度税制改正〜相続税・贈与税の改正について
教育資金や結婚・子育て資金の一括非課税贈与を受けた場合、
贈与期間によって管理残額に対する課税関係が異なるため、
相続税の申告には最新の注意が必要です。

※掲載内容は関連法案が3月下旬に成立する前の解説です。
改正のポイント
1.直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
 子育て世代を支援するため、祖父母などからの教育資金の援助に1,500万円までは贈与税がかからないようにする本制度は節税目的での利用を防ぐため、適用要件を厳しくしたうえで期限が2年(令和5年3月31日)まで延長されます。
【令和3年4月1日以後】
@贈与者が死亡した日において、受贈者が23歳未満である場合や学校等に在学しているときなどを除き、
その死亡の日までの年数にかかわらず、同日における管理残額を、受贈者が当該贈与者から相続等により取得したものとみなされます。
A相続等により取得したものとみなされる管理残額について、贈与者の子以外の直系卑属に相続税が課される場合には、当該管理残高に対応する相続税額は、相続税額の2割加算の対象とされます。(表1参照)
2.直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置
 祖父母などから結婚や子育てに係る資金を援助してもらう場合、1,000万円までは贈与税を非課税とする本制度も、適用要件を厳しくしたうえで期限が2年(令和5年3月31日)まで延長されます。
【令和3年4月1日以後】
 贈与者が相続等により取得したものとみなされる管理残額について、当該贈与者の子以外の直系卑属に相続税が課される場合には、当該管理残額に対応する相続税額は、相続税額の2割加算の対象とされます。(表1参照)
(表1)教育資金、結婚・子育て資金一括贈与の非課税制度
贈与税の
非課税制度
贈与者死亡時の取扱い 改正前 改正後(令和3年4月1日以後)
教育資金 管理残額の範囲
(相続税課税対象)
贈与者死亡前3年以内の
贈与に係る残額*
死亡の日までの年数にかかわらず、
本制度によるすべての贈与に係る残額*
子以外の直系卑属が取得した場合の
相続税額の2割加算
対象外 対象
結婚・
子育て資金
子以外の直系卑属が取得した場合の
相続税の2割加算
対象外 対象
* 死亡の日において、受贈者が下記のいづれかに該当する場合を除きます。
  Ⓐ23歳未満の者 Ⓑ学校等在学中の者 Ⓒ給付金支給対象の教育訓練を受講中の者
3.直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置等
 改正前では、令和3年4月1日以後の住宅取得等の契約締結分から非課税限度額が下がる予定でした。
しかし、今回の改正で令和3年12月末までは据え置かれることになります。
@令和3年4月1日から同年12月31日までの間に住宅用家屋の新築等に係る契約を締結した場合における非課税限度額が、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの間の非課税限度額と同額の1,500万円まで引き上げられます。(表2参照)
A受贈者が贈与を受けた年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下である場合に限り、床面積要件の下限が40u以上(改正前:50u以上)に引き下げられます。(表3参照)
 以上の改正は、令和3年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用するとされています。
 また、特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税制度の特例についても同様に、床面積要件の下限が40u以上(改正前:50u以上)に引き下げられます。
 そのほか、相続税の納税義務者の範囲の見直し、個人事業者の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について、適用対象となる特定事業用資産の範囲の見直し、非上場株式等にかかる相続税の納税猶予の特例制度における後継者の役員要件の見直しなどが行われます。
(表2)住宅取得資金等の贈与税の非課税限度額
改正前 改正後
 消費税等の税率10%が適用される住宅用家屋の新築等 1,200万円 1,500万円
 上記以外の住宅用家屋の新築等 800万円 1,000万円
(注)上記の非課税限度額は、耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋に係る非課税限度額であり、
一般の住宅家屋に係る非課税限度額は、上記の非課税限度額からそれぞれ500万円を減じた額とする。

(表3)改正後の床面積の要件
 受贈者の贈与を受けた年分の合計所得金額  住宅用家屋の登記上の床面積
 1,000万円超2,000万円以下  50u以上240u以下
 1,000万円以下  40u以上240u以下(改正後)

 SEKISUI HOUSE 資産活用委員会積水部会「資産活用得本」Vol.162(山本和義)
<今月のテーマ>2021.01 特定生産緑地指定か有効活用か
特定生産緑地申請期限迫る
 平成4年に生産緑地の指定を受けた三大都市圏・特定市の市街化区域内農地は、令和4年に指定から30年経過することになります。生産緑地の指定を受けた農地に係る固定資産税は、この30年間、市街化調整区域にある農地に係る固定資産税とほぼ同様の1反(300坪・約1000u)当たり数千円という非常に低額の固定資産税でした。
 また、生産緑地所有者(=農業従事者)が死亡したときに係る相続税は、市街化区域の宅地としての高い評価額で計算した相続税額と、1反当たり82万円(大阪府の田の場合、畑は57万円)で計算した非常に低い相続税との差額の納税について相続した農業相続人が死亡するまで猶予され、死亡時に免除される特例が適用されてきました。
 令和4年に30年経過するまでに、特定生産緑地に移行する手続きをしなければ、これらの特典がなくなり、特に固定資産税は数千円から数十万円と100倍近くになります。とはいえ、後継者が農業を継続できなければどうしようもないのが現実です。この移行の申請期間が早い市では令和3年3月31日までとされています。今回は特定生産緑地に移行するか生産緑地解除かの判断に必要な情報をまとめてみました。
特定生産緑地指定のメリット
 生産緑地について、特定生産緑地の指定をうけて引き続いて営農する場合には、固定資産税は従来どおり農地評価・農地課税として1反当たり数千円程度のままです。また特定生産緑地を保有した状態で特定生産緑地の所有者が死亡した場合には、相続人がその特定生産緑地を相続し、引き続いて営農すれば、市街化区域の宅地としての高い評価額で計算した相続税額と1反当たり82万円(大阪府の田の場合、畑は57万円)で計算した非常に低い相続税額との差額の納税について、相続した農業相続人が死亡するまで猶予され、死亡時に免除される特例が適用されます。
 特定生産緑地は指定から10年を経過すると、特定生産緑地を継続するかどうかを選択することができます。
市民農園等で一定の手続きで貸しても納税猶予の適用あり
 農業後継者がいない場合には、相続税の納税猶予の適用を受けている農業相続人が、特例適用農地について一定の貸付を行った場合でも、貸付都市農地としてその相続税の納税猶予の継続適用が可能となる特例が創設されました。これらの制度はまだこれからのところもありますが、多くの市ですでにスタートしてます。
@貸付都市農地等は生産緑地に限る
 適用対象は生産緑地内の農地等に限られ、特定生産緑地の指定を受けたものを含み、買取申出されたものは除かれます。貸付を行った日から2か月以内に納税地の所轄税務署長に届出書を提出しなければなりません。
A認められる貸付
 貸付都市農地等として認められるものは一定の条件を満たす貸付に限定されていますので、JAや市役所などで確認してください。
特定生産緑地か生産緑地解除か
 生産緑地指定から30年経過する生産緑地については、特定生産緑地とするか生産緑地を解除して有効活用や売却するのか下記のように整理できます。慎重に検討し、後悔のない選択をしましょう。
*生産緑地の選択肢
 生産緑地を今後どのように活用していくのか、将来を見据えた検討が必要!
 ※生産緑地・特定生産緑地に関する行政等の動向が地域によって異なります。
1.生産緑地の買取りの申出を行う 
 メリット :@有効活用又は売却が可能
 デメリット:@相続税の納税猶予は適用不可
       A固定資産税は宅地並み課税
       B現在、納税猶予を受けている場合には、本税+利子税の納付義務が生じる
2.特定生産緑地の指定を受ける
 メリット :@相続税の納税猶予適用可能
       A固定資産税は農地課税
 デメリット:原則、買取りの申出が10年間不可(実質、有効活用及び売却が10年間不可)
       選択肢@ 10年間引続き営農する
       選択肢A 一定の要件に基づき貸与する
                      →貸与期間(例:市民緑地として緑地保全・緑化推進法人に貸与など)
3.従来通りの生産緑地としておく
 メリット :@いつでも買取り申出可能により有効活用又は売却へ
       A従来から受けている相続税の納税猶予は継続可能
       B一定の要件に基づき貸与する
       →貸与期間(例:市民緑地として緑地保全・緑化推進法人に貸与など)
 デメリット:@相続税の納税猶予は適用不可
       A固定資産税は宅地並み課税
相続税の納税猶予 固定資産税 買取り申出
1 生産緑地の買取りの申出を行う @相続税の納税猶予は適用不可
A現在、納税猶予を受けている場合には、本税+利子税の納付義務が生じる
宅地並課税 @有効活用又は売却が可能
2 特定生産緑地の指定を受ける @相続税の納税猶予適用可能 農地課税 原則、買取りの申出が10年間不可
(実質、有効活用及び売却が10年間不可)
選択肢@10年間引続き営農する
選択肢A一定の要件に基づき貸与する
→貸与期間(例:市民緑地として緑地保全・緑化推進法人に貸与など)
3 従来通りの生産緑地としておく @相続税の納税猶予は適用不可 宅地並課税 @いつでも買取り申出可能により有効活用又は売却へ
A一定の要件に基づき貸与する
→貸与期間(例:市民緑地として緑地保全・緑化推進法人に貸与など)
A従来から受けている相続税の
納税猶予は継続可能

SEKISUI HOUSE 資産活用委員会積水部会「資産活用得本」Vol.161(今仲清)筆者一部改

誌上セミナー(バックナンバー)

自社株対策と不動産

はじめに
 平成29年の国税庁の統計資料によると、相続税の申告のあった被相続人一人当たりの課税価格は1億3952万円、このうち不動産は47%、自社株は26%を占めています。
 相続対策を考える場合に、不動産と自社株の対策は必須のものと言えます。自社株対策を優先して考える場合に、その評価会社が所有する不動産についても対策を併せて実行することで、自社株対策の効果をより高めることができます。
 そこで、自社株(事業承継)対策にどのように不動産を活用するかということにフォーカスしてまとめてみました。

不動産管理会社の活用
 例えば、賃貸マンションを新たに設立した不動産管理会社で建築した場合に、賃貸マンション完成後3年経過後は出資したその建物の簿価と相続税評価額の差額によって、出資した株式の相続税評価額がゼロ以下になることがあり、子などへその株式を無税で贈与することができます。

[設例1 法人で賃貸マンション等を新築した場合の株式評価額]
〇法人設立時の貸借対照表 (単位:万円)
 現 金    1,000  資 本   1,000
個人が1,000万円を出資して法人を設立します。
(消費税の課税事業者となり、賃貸マンション等の新築に係る消費税の還付を受けることができます。)
(注)令和2年度税制改正
居住用賃貸建物の取得に係る消費税の仕入税額控除制度の適正化(案)
 住宅の貸付けのための建物(居住用賃貸建物)の取得に係る仕入税額については、住宅家賃(非課税売上)に対応するものとして、本来仕入税額控除の対象となるべきものではありませんが、作為的な金の売買を継続して行う等の手法により、仕入税額控除を行う事例が散見されるため、仕入税額控除制度の適正化を図る観点から、令和2年10月1日以後に行う居住用賃貸建物の仕入れについて、仕入税額控除制度の適用を認めないこととします。
※令和2年3月末までの契約に基づき取得した居住用賃貸建物については、一定の経過措置を設けます。
※仕入税額控除制度の適用が認められないこととされた居住用賃貸建物について、3年以内に住宅の貸付け以外の貸付けの用に供した場合又は譲渡した場合には、一定の計算を行った上、仕入控除税額に加算して調整することとなります。
〇増資時の貸借対照表    (単位:万円)
 預金等    35,000  借入金   20,000
 資 本   15,000
14,000万円の増資(うち、1/2は資本準備金とします)をします。(法人設立時から資本金を15,000万円とするより登録免許税が軽減されます。)不足する資金は銀行から20,000万円借り入れます。
〇マンション完成直後の相続税評価額(純資産価額)(単位:万円)  
 預金等      1,000  借入金   20,000
 建物等   23,800 純資産価額    △2,700
預金と借入金を原資にマンションを新築(34,000万円)します。マンションは通常の取引価額
(34,000万円×(1-0.3)=23,800万円)で評価されます。
(土地は使用貸借とします。)
〇3年経過後の相続税評価額(純資産価額)(単位:万円)
 預金等      3,000  借入金   20,000
 建物等   14,280 純資産価額    △2,700
建築後3年経過するとマンションは固定資産税評価額を基に評価します。
・固定資産税評価額
 取得価額34,000万円×60%(目安)=20,400万円
・3年経過後の相続税評価額
 20,400万円×(1−30%×100%)=14,280万円
※賃貸割合は100%と仮定。
※3年分のキャッシュフロー+2,000万円と仮定。

 また、会社法109条Aの規定を活用して、株式の大半は子へ移転しておいても、親が議決権の過半数をホールドとできるので、父母が必要な意思決定を行うことが可能です。

会社法109条Aを活用した場合の所有株式数と議決権数
 株主      所有株式数      議決権数
 現   状  父死亡・ 株式
は長男が相続
 現   状  父死亡・ 株式
は長男が相続
  父   1株  −  100個  − 
  母   1株    1株  100個  100個 
 長男 98株   99個   98個   99個 
 合計 100株  100株  298個  199個 
 

純資産価額方式による純資産価額の引き下げ
純資産価額方式における純資産価額の計算において、その評価会社が賃貸不動産を取得することで、時価と相続税評価額の差額による純資産価額の引下げ効果などが期待できます。
 
[設例2 法人で賃貸不動産を取得した場合の相続税評価額]
1)A社(資本金1,000万円(20万株発行)、株式規模区分「中会社の小」
2)株主 父が全株所有
3)類似業種比準価額 800円
4)純資産価額(6の賃貸不動産取得前)
                              (単位:千円)
 資産の部  負債の部
 勘定科目  相続税評価額  帳簿価額   勘定科目  相続税評価額  帳簿価格 
 株  式 150,000 120,000 その他の負債 100,000 100,000
 土  地 250,000 180,000
 預  金 100,000 100,000
 合  計 500,000 400,000  合  計 100,000 100,000
・純資産価額
(5億円ー1億円)−{(5億円ー1億円)−(4億円ー1億円)}×37%/20万株=1,815円

5)相続税評価額(A社株価)800円×0.6+1,815円×(1−0.6)=1,206円
6)賃貸不動産を銀行借入で取得し3年経過後(他の財産・債務の変動はないものとする)
 @賃貸不動産 帳簿価額   2億円(相続税評価額 6,000万円)
 A銀行借入金 帳簿価額 1.8億円(相続税評価額 1.8億円)
7)対策の効果<賃貸不動産を取得し3年経過後>
                              (単位:千円)
 資産の部  負債の部
 勘定科目  相続税評価額  帳簿価額   勘定科目  相続税評価額  帳簿価格 
 株  式 150,000 120,000 その他の負債 100,000 100,000
 土  地 250,000 180,000 銀行借入金 180,000 180,000
 賃貸不動産 60,000 200,000
 預  金 100,000 100,000
 合  計 560,000 600,000  合  計 2800,000 280,000
 
・純資産価額
(5.6億円ー2.8億円)−{(5.6億円ー2.8億円)−(6億円ー2.8億円)}×37%/20万株=1,400円
8)株価の計算(中会社の小) 800円×0.6+1,400円×(1−0.6)=1,040円
9)対策の効果の検証
  対策前   対策後
純資産価額 1,815円 1,400円
A社株価 1,206円 1,040円
A社株式の相続税評価額  24,120万円  20,800万円
 

本業の業績が芳しくない会社の対策
含み益のある不動産を多く所有する会社を例にして、解散・清算する選択肢以外の方法として、業種転換(現在の事業を廃止し不動産賃貸業へ)を図り、上手に事業承継を行うことができます。

株式等保有特定会社の対策
評価会社の有する資産が株式等に偏っていることで、一般の評価会社の評価額に比べて以上に高く評価されていることを確認し、その評価会社が、株式等保有特定会社から脱却するために、賃貸不動産などを借入金で取得するなどの方法があります。

SEKISUI HOUSE 資産活用委員会積水部会「資産活用得本」Vol.156(山本和義)

法律と税金の知識

ここに注意! 民法改正後のかしこい遺産分割
 相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内とされています。遺言書がない場合、この期限までに遺産分割を調え、各相続人の遺産取得額を決めて、その遺産取得額を基礎として相続税を計算し納付するのが一般的な流れとなります。その際の遺産分割の注意点や、もし10ヵ月以内に遺産分割協議が調わなかった場合はどうなるのでしょうか。今回は、民法改正後のかしこい遺産分割や相続税申告の注意点を説明します。
1 遺産分割が調わない場合
 民法では、被相続人が亡くなった瞬間に相続が発生すると定められています。法的に有効な遺言書が存在していれば、法定相続人の意思がまとまらなくても遺産分割協議をすることなく原則として遺言書の内容通りに遺産を分割することができます。しかし、遺言書がなければ遺産分割協議によって取得者が決まるまでは、遺産は相続人全員による法定相続分の割合での共有状態となります。
 この遺産分割協議は、他の相続人の相続分が法定相続分よりも少なくなる遺産分割てあっても、相続人全員が合意するものであれば法定相続分に従わず、どのように遺産分割してもよいとされています。遺言書がない場合の法定相続分による遺産の共有状態を解消して、単独所有や相続人が納得する形に分割することができますが、昨今では兄弟間でも平等であることを求める傾向が強く、相続税の申告期限までに遺産分割協議が成立することは非常に困難になっています。そこで、相続税法では共同相続人間において申告期限までに遺産が分割されていない時は、民法(寄与分を除く)の規定による法定相続分に従って財産を取得したものとして各共同相続人に課税価格を計算するとされています。
 遺産分割が調わないと、不動産や株式が共有状態となり、うまく有効活用できないことや預貯金の一部しか引き出せないなど納税資金の準備が困難な状態であるにもかかわらず、相続発生から10ヵ月以内に相続税を納付しなければならないという相続人にとって大変困った状態となります。
2 遺産分割が確定しなかった場合の注意点とデメリット
 相続税の申告期限までに遺産分割が調わない場合、次のような税務上の取扱いや特例の適用が受けられません。ただし@小規模宅地等の特例およびA配偶者の相続税額の軽減措置については、申告期限から3年以内に遺産分割が確定した場合には、更正の請求をすることにより、これらの適用を受けて相続税の還付を受けることができます。一方で、B農地等の相続税の納税猶予については、申告期限から3年以内に遺産分割が確定しても、その時にはもう適用を受けることはできません。もし遺産分割で揉めていると間に合わなくなってしまうので特に注意してください。
@ 小規模宅地等の特例
 小規模宅地等の特例とは、被相続人等や同族会社が経営している事業用宅地および被相続人等の自宅敷地について、一定の適用要件を満たす場合に、相続税の評価額が大きく減額される特例をいいます。
 改正民法で創設された「配偶者居住権」に基づく敷地利用権や負担付き土地所有権であっても、適用要件を満たしていれば、この特例で80%評価減の適用を受けることができます。
A 配偶者の相続税額の軽減措置
 配偶者は相続税法上で優遇されており、取得した財産に係る相続税については、課税価格の合計額に対する法定相続分(または1億6000万円のいづれか多い額)以下であれば相続税はかかりません。
B 農地等の相続税の納税猶予
 三大都市圏特定市の生産緑地(または特定生産緑地)と三大都市圏特定市以外の地域の農地については、相続税の申告期限までに対象となる農地等を取得し、かつ、農業経営を開始するなどの厳しい種々の要件を満たせば、本来の相続税額と、その農地などを農業投資価額という非常に低い相続税評価額により計算した相続税額との差額の納税猶予が認められています。
3 かしかこい遺産分割とその注意点
@ 配偶者居住権
 相続財産の大半を居住用の不動産が占めており、金融資産があまりない場合には、相続分の関係で、配偶者が遺産分割で居住用不動産以外に金融資産を受け取ることができない状態や、それどころか代償金を払わなければならない事態も考えられます。この問題に対処するため、居住用建物を「配偶者居住権」と「配偶者居住権という負担の付いた所有権」に分解し、配偶者が居住権を取得することで自宅への居住を継続したまま、今後の生活保障のための金融資産等の遺産を取得しやすくするための制度として、配偶者居住権が令和2年4月1日から施行されています。
 この配偶者居住権は、原則として「遺言による遺贈」と「遺産分割」等により取得できる権利となっており、相続開始時に自動的に発生するもではありません。遺言書がない場合、配偶者居住権を遺産分割協議で設定するためには配偶者が配偶者居住権を取得すること自体に加え、その他の財産をどう分割すかについても、遺産分割協議ですべの相続人が合意する必要があります。
 したがって、利害が大きく対立する相続人がいる場合や、相続人同士の仲が悪いような場合には、遺産分割協議を成立させ、配偶者が配偶者居住権を取得することはかなり困難だといえるでしょう。もし、配偶者居住権を取得したいと思われる方は、遺言書を書いてもらうなど生前か準備しておくことをお勧めします。
A 第2次相続を考慮した資産分割
 夫婦間の相続においては、前述の配偶者の相続税額の軽減措置により、相続税の納税をしなけれならないケースは少ないのですが、この税額軽減を利用して配偶者が多額の財産を相続すると、配偶者が亡くなった時(第2次相続)の相続財産が増加することになります。例えば、第1次相続相続税がかからないからと言って配偶者が相続財産の1/2(法定相続分)相続した場合、第2次相続を考慮した次世代(子や孫)への財産移転という幅広い視点でみると、かえって通産の相続税額が高くなるということが起こりえます(事例参照)。

 事 例  夫の相続財産3億円、相続人は妻と子の場合(妻固有の財産はなし)
ケース@
第1次相続で
妻が財産の
1/2を
相続した場合
 @第1次相続(夫の相続)  A第2次相続(妻の相続) 通算の相続税額
 妻:相続財産1.5億円(≦1億6000万円)
 →配偶者の税額軽減により相続税額ゼロ
 子:相続財産1.5億円
 →相続税3,460万円
 子:相続財産1.5億円
 →相続税2,860万円
  計6,320万円
ケースA
第1次相続で
妻が財産の
1/3を
相続した場合
 @第1次相続(夫の相続)  A第2次相続(妻の相続) 通常の相続税額
 妻:相続財産1億円(≦1億6000万円)
 →配偶者の税額軽減により相続税額ゼロ
 子:相続財産2億円
 →相続税4,613万円
 子:相続財産1億円
 →相続税1,220万円
  計5,833万円

 このように第1次相続が発生したときに配偶者がどのような種類の財産をいくら相続するかということは大変重要なことで、この第1次相続での遺産分割の工夫は、第2次相続対策の出発点といえるでしょう。
 では、第1次相続で配偶者にどのような財産を遺すのが望ましいのかといえば、「将来的に価値が下がるもの」「収益を生まないもの」「簡単に贈与・消費できる現預金」などがお勧めです。例えば、配偶者の居住用家屋又は配偶者居住権、収益を生まない建物など良いでしょう。
 そのほか、生命保険金については相続税法上の相続財産とみなされ、課税対象になりますが、民法上の遺産ではないため遺産分割のの対象とならず、遺産分割がまとまらなくても受け取ることができます。ただし、配偶者が受取人となっている生命保険金は、生活費で使い切れる金額であれば問題ありませんが、過大な保険金の場合は第2次相続税額が増えてしまうので注意が必要です。また養子にしていない孫を受け取り人にしていると、相続税の非課税枠が使えない上に、相続税の2割加算の対象となっていしまいます。生命保険金は、子を受取人にしておくと相続税の減額効果を最大限使えるといえます。
B 預貯金の仮払い制度
 平成28年12月19日に最高裁大法廷決定で預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれることになり、各共同相続人は法定相続分に応じた額を単独で払戻し請求ができなくなりました。つまり、遺産分割協議が確定しない限り、被相続人の配偶者の生活費や葬式費用などで早急にお金が必要な場合においても、預貯金の引出しを行うことはできなくなったのです。
 そこで、改正民法により金融機関ごとに次のいずれかの低い方の金額までを相続人単独で引き出せる「預貯金の仮払い制度」が創設されました。(2019年7月1日施行)
 
  A 相続開始時の預貯金残高の1/3に請求を行う相続人の法定相続分をかけた金額
       または
  B 150万円

 なお、この預貯金の仮払い制度により、預貯金の一部を相続人が単独で引き出していた場合の相続税の申告は十分な注意が必要です。例えば、葬式費用に必要だとして仮払い制度を利用し、そのお金を葬式等で使ったてしまったとして、仮払い後の預貯金残高で相続税の申告をすると、課税当局に指摘され追徴課税の対象となります。これは預貯金等の金融資産の取引履歴を見れば一目瞭然で、課税当局が申告書をチェックする際の最初の指摘事項となっているからです。相続税の申告の際は、必ず仮払い前の相続開始時点の預貯金残高で申告しなければなりません。
C 特別受益の持戻免除
 一部の相続人だけが被相続人から生前贈与等で「特別」な利益を受けていた場合、他の共同相続人との間に不公平な状態が生じることになります。 この特別受益は遺産の前渡しの性質を持ち、具体的相続分を計算する際、受益者は遺産の一部を先に受け取ったとして、相続で取得できる財産はその分減少することになるのです。この特別受益の持戻しについては、被相続人が持戻しをを免除する意思表示をしておけば、特別受益としての計算を行わなくても良いものとされています。
 なお、税法には、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産等の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2000万円まで贈与税が非課税となる「贈与税の配偶者控除の特例」があります。改正前民法では居住用不動産の非課税贈与であっても持戻免除の意思表示がない限り特別受益の持戻しの対象となり、配偶者の具体的相続分を増やすことにはならなかったのです。この点について、改正民法では令和元年7月1日以降にされた婚姻期間20年以上の夫婦間での居住用不動産の贈与については、配偶者保護の観点から遺言書がなく持戻しの免除の意思表示が行われていなくとも、その居住用不動産については、持戻しの免除の意思表示があったものと推定されることになりました。
  まとめ     争族回避のために遺言書の準備を
 遺言書がない場合は、遺産分割協議を行うことになりますが、相続人同士の仲が悪ければ思うように進まないことがあります。とはいえ、相続税の申告期限は待ってくれません。遺産分割が確定していないと、税務上の種々の特例の適用が受けられないことによる高額な相続税や、預貯金の引出制限により一時的に納税資金の確保が困難になるなど多くのデメリットが生じます。このリスクを軽減させる方法は、遺言書を準備しておくことです。改正民法で自筆証書遺言のハードルが下がっておりますので、是非この機会に争族を回避するための遺言書の作成を考えてみてはいががでしょうか。
Maisowner 2021年 春号 監修:坪多晶子(筆者一部改)

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「令和3年度(2021年度)税制改正大綱」の主な改正事項【住宅土地・相続贈与関係】
「令和3年度税制改正大綱」が令和2年12月10日に公表されました。
1 住宅ローン控除の特例の延長と適用要件の緩和 所得税 住民税
  令和3年1月1日〜令和4年12月31までの居住開始
@ 住宅取得に係る消費税率が10%である場合の控除期間13年間の特例が2年延長され、
次に掲げる区分に応じそれぞれ次に定める期間内その契約が締結されているものについて適用されます。
住宅等の区分 改正案 [参考]現行のコロナ特例
新築 令和2年10月1日から令和3年  9月30日までの契約 令和2年  9月30日までの契約
建売・中古・増改築等 令和2年12月1日から令和3年11月30日までの契約 令和2年11月30日までの契約
A @の特例が床面積40u以上50u未満(現行50u以上)の住宅用家屋等にも適用されます。ただし、13年間の控除期間のうち、合計所得金額が1,000万円超の年については適用されません。(50u以上の場合は原則通り合計所得金額3,000万円以下である年に限る。)
2 土地に係る固定資産税等の負担調整措置の延長等 固定資産税 都市計画税
  令和5年度まで3年延長(課税標準額の据置措置は令和3年度のみ)
宅地等および農地の負担調整措置は令和5年度までの現行の仕組みが継続されます。また令和3年度に限り、宅地等(商業地等は負担水準が60%未満の土地に限り、商業地等以外の宅地等は負担水準が100%未満の土地に限る)および農地(負担水準が100%未満の土地に限る)の課税標準額が令和2年度と同額とされます。
3 サービス付き高齢者向け賃貸住宅の減額措置の延長 固定資産税  不動産取得税 令和5年3月31日まで
固定資産税、不動産取得税の減額措置等の各特例について、対象家屋の床面積上限を180u以下(現行210u以下)に引き下げ、一定の補助金を対象外とした上で、適用が2年延長されます。
4 登録免許税の特例の延長 登録免許税 令和5年3月31日まで
土地売買の所有権移転登記の軽減税率1.5%、所有権信託登記(土地)の軽減税率0.3%の特例が2年延長されます。
5 不動産取得税の特例の延長 不動産取得税 令和6年3月31日まで
宅地評価土地の取得に係る課税標準額を価格の1/2とする軽減措置、住宅および土地の取得に係る税率を3%とする減額措置が3年延長されます。
6 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の拡充 贈与税 令和3年12月31日まで
@ 令和3年4月1日から令和3年12月31日までに新築等に係る契約をした場合における非課税限度額が、次の表の通り引き上げられます。
住宅取得等の契約締結年月日が
令和3年  4月  1日〜
令和3年12月31日である場合
優良な住宅用家屋 左記以外の家屋
消費税率10%適用 左記以外 消費税率10%適用 左記以外
現  行 1,200万円 800万円 700万円 300万円
改正案 1,500万円 1,000万円 1,000万円 500万円
A 贈与者が贈与を受けた年分の合計所得金額が1,000万円以下である場合に限り、床面積要件の下限が50u以上から40u以上に引き下げられます(住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税制度の特例についても同様)。
7 教育資金一括贈与の贈与税の非課税措置の延長等 贈与税 相続税 令和5年3月31日まで
令和3年4月1日以後の信託等により取得す信託受益権等については@信託等があった日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合(一定の場合を除く)には、その死亡の日までの年数にかかわらず、死亡の日における管理残額が相続等により取得したものとみなされ、また、A孫等に対する相続税額の2割加算の対象とされ、適用が2年延長されます。
8 結婚・子育て資金の一括贈与の贈与税の非課税措置の延長等 贈与税 相続税 令和5年3月31日まで
@ 令和3年4月1日以後の信託等により取得する信託受益権等については、孫等に対する相続税額の2割加算の対象とされ、A 令和3年4月1日以後は受贈者の適用年齢の下限が18歳以上(現行20歳以上)に引き下げられ、適用が2年延長されます。
Maisowner 2021年 春号


※ 暦年贈与(縮小・廃止)の場合  60代から30代への暦年贈与 親名義も一考。

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