税務関連情報


税務関連情報

  
♥ 最高裁判決:相続税における遺産分割後の更正の請求の許容範囲

概要

論点整理表


♥ 雇用者給与等支給増加額等を実際よりも少額に記載した明細書を添付して確定申告をした場合の修正の可否

裁判例(1)


♥ 損害賠償事例:雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除(所得拡大税制)の適用失念

損害賠償事例


♥ 話題の裁決事例:親子間の資金移動

話題の裁決事例


♥ 裁判例(2):役員給与における「不相当に高額な部分の金額」の意義

裁判例(2)


♥ 税制改正大綱/税理士の義務(東京地裁)

税制改正大綱/税理士の義務


♥ 資本金1億円以下の利点

資本金1億円以下利点


 
1. 総額表示義務化

総額表示の義務付け


2. 熊王先生!大変ですよ

熊王先生!大変ですよ


3. 消費税経理処理通達改正

消費税経理処理通達改正


4. 消費税経理処理通達Q&A

消費税経理処理通達改正Q&A


5. 免税事業者の経理処理

免税事業者の経理処理


6. 基準期間において免税事業者であった者の課税売上高の判定

 基準期間の免税事業者の課税売上高判定


7. まんぼう

マンボウ


 

Top▲

* 脚下照顧

裁判例


租税特別措置法42条の12の4第1項による法人税額の特別控除を受けるにあたり雇用者給与等支給増加額等を実際よりも少額に記載した明細書を添付して確定申告をした場合の修正の可否

東京地方裁判所 
  平成29年(行ウ)第490号 法人税等更正処分等取消請求事件(第1事件)
  平成30年(行ウ)第144号 更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求事件(第2事件)  
  平成31年1月25日判決(一部棄却,一部却下)LEX / DB 25559039

1 事案の概要
 原告Xが,西新井税務署長に対し,
(1)本件事業年度の法人税の確定申告をした際,租税特別措置法42条の12の4第1項*1が規定する法人税額の特別控除*2について,雇用者給与等支給増加額を49,041,011円,これを基礎として計算した法人税額の特別控除額を4,904,101円等と記載した明細書*3を添付した確定申告書*4を提出するとともに,
(2)本件課税事業年度の復興特別法人税の確定申告をした際,本件法人税確定申告書及び本件原告明細書の記載を前提とした確定申告書*5を提出したところ,西新井税務署長は,平成28年6月28日付けで,本件特別控除に基づいて法人税の額から控除される金額は,同条4項*6の規定により本件原告明細書に記載された金額に限られるとして,本件各更正処分等をしたため,原告が,法人税及び復興特別法人税の各申告に係る税額につき更正をすべき旨の請求(本件各更正の請求)をしたものの,西新井税務署長は,平成29年11月27日付けで,本件各通知(更正をすべき理由がない旨の通知)処分をした。

 本件は,原告が,本件原告明細書の記載は明らかな転記ミスによるものであり,本件各更正処分等は違法であるとして,本件各更正処分等の一部の取消しを求める事案(第1事件)と,本件各更正処分等が違法であることによれば,本件各更正の請求にはいずれも理由があるとして,本件各通知処分の取消しを求める事案(第2事件)である。

*1(ただし,平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)
*2(以下「本件特別控除」という。)
*3(法人税法施行規則別表六(二十)。ただし,平成27年財務省令第46号による改正前のもの。以下「本件明細書」という。)
*4(以下「本件法人税確定申告書」といい,本件法人税確定申告書に添付された明細書を「本件原告明細書」という。)
*5(以下「本件復興税確定申告書」といい,本件法人税確定申告書と総称して「本件各確定申告書」という。)
*6(ただし,平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)


2 原告X請求内容と判決

第1事件(法人税更正処分の取消・復興特別法人税更正処分の取消・過少申告加算税賦課決定処分の取消)

(1)西新井税務署長が平成28年6月28日付けで原告に対してした原告の平成25年10月1日から平成26年9月30日までの事業年度*1に係る法人税の更正の処分*2のうち法人税の額117,029,000円を上回る部分及び過少申告加算税の賦課決定処分*3を取り消す。

*1(以下「本件事業年度」という。)
*2(以下「本件法人税更正処分」という。)
*3(以下「本件法人税賦課決定処分」という。)


(2)西新井税務署長が平成28年6月28日付けで原告に対してした原告の平成25年10月1日から平成26年9月30日までの課税事業年度*1の復興特別法人税の更正の処分*2のうち法人税額11,703,900円を上回る部分及び過少申告加算税の賦課決定処分*3を取り消す。

*1(以下「本件課税事業年度」という。)
*2(以下「本件復興税更正処分」といい,本件法人税更正処分と総称して「本件各更正処分」という。)
*3(以下「本件復興税賦課決定処分」といい,本件法人税賦課決定処分と総称して「本件各賦課決定処分」という。また,本件各更正処分と本件各賦課決定処分を総称して「本件各更正処分等」という。


※→棄却(※内容を検討して理由がないとして退けること。)
(単位:円)
平成25年10月1日 〜 平成26年9月30日の事業年度  更 正 処 分
H28・6・28
 更正の請求
H29・8・28
 法 人 税   法人税の額 128,540,500 117,029,000
 過少申告加算税 219,000 賦課決定処分取消
 復興特別法人税  法人税額 12,855,000 11,703,900
 過少申告加算税 21,000 賦課決定処分取消
 
第2事件(更正の請求に対する「更正をすべき理由がない旨の通知処分」の取消)

(1)西新井税務署長が平成29年11月27日付けで原告に対してした本件事業年度の法人税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知の処分を取り消す。

(2)西新井税務署長が平成29年11月27日付けで原告に対してした本件課税事業年度の復興特別法人税の更正の請求*1に対する更正をすべき理由がない旨の通知の処分*2を取り消す。 

*1(以下,前記(1)の更正の請求と総称して「本件各更正の請求」という。)
*2(以下,前記(1)の通知の処分と総称して「本件各通知処分」という。)


※→却下(※手続の不備などで不適当な訴訟として請求の中身を検討されることなく退けること。門前払いの判決。)
 
3 関係法令の定め
別紙1 関係法令の定め(抄)
1 租税特別措置法42条の12の4(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)の定め
(1)租税特別措置法42条の12の4第1項の定め
 租税特別措置法42条の12の4第1項の柱書きは,青色申告書を提出する法人が,平成25年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度(中略)において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において,当該法人の雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額(以下,「雇用者給与等支給増加額」という。)の当該基準雇用者給与等支給額に対する割合が100分の5(平成27年4月1日前に開始する事業年度にあっては100分の2とし,同日から平成28年3月31日までの間に開始する事業年度にあっては100分の3とする。)以上であるとき(次に掲げる要件を満たす場合に限る。)は,当該法人の当該事業年度の所得に対する法人税の額(中略)から,当該雇用者給与等支給増加額の100分の10に相当する金額(以下,「税額控除限度額」という。)を控除する(前段)が,当該税額控除限度額が,当該法人の当該事業年度の所得に対する法人税の額の100分の10(当該法人が中小企業者等(中略)である場合には,100分の20)に相当する金額を超えるときは,その控除を受ける金額は,当該100分の10に相当する金額を限度とする(後段)旨を定めている。
一・二(略)
(2)租税特別措置法42条の12の4第4項の定め(→ 当初申告要件・適用額の制限)
 租税特別措置法42条の12の4第4項は,同条1項の規定は,確定申告書等*,修正申告書又は更正請求書に,同項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額,控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り,適用するが(前段),この場合において,同項の規定により控除される金額は,当該確定申告書等*に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限るものとする(後段)旨を定めている。

*「確定申告書等」=(租税特別措置法2条(用語の意義)A二十七)確定申告書(期限後申告書)・中間申告書


前提となる事実関係(当事者の間に争いがない又は当裁判所に顕著な事実)

(1)当事者等
ア 原告は,平成2年12月6日,薬局の経営等を目的として設立された株式会社である。
イ D税理士法人(以下「本件税理士法人」という。)は,平成26年11月28日当時,原告のいわゆる顧問税理士に就任していた法人である。

(2)本件各更正処分等に至る経緯
ア 本件税理士法人の従業員は,平成26年11月頃,本件事業年度の法人税の確定申告の準備をするため,体系別給与統計表を参照した上で,表計算のソフトウェアであるエクセルのいわゆるワークシート(以下「本件エクセルシート」という。)を作成したが,短時間労働者(いわゆるパートタイマー)に対する課税支給額を上記の体系別給与統計表から転記しようとした際,課税支給額ではない非課税の通勤手当の額を本件エクセルシートの課税支給額の欄に転記した。同従業員は,誤ったデータが入力された本件エクセルシートのデータを前提として,本件原告明細書を作成し,これを添付した確定申告書(本件法人税確定申告書)を作成した。
  本件税理士法人は,平成26年11月28日,西新井税務署長に対し,所得の金額を5億1851万8516円,納付すべき法人税の額を1億3138万2090円,法人税の額から控除される法人税額の特別控除の額を502万1701円(本件特別控除の額が490万4101円,その余の法人税額の特別控除の額が11万7600円)等とする原告が法人税法の規定に基づいてする本件事業年度の法人税の確定申告につき原告を代理し,本件法人税確定申告書を提出するとともに,課税標準法人税額を1億2636万円,納付すべき復興特別法人税の額を1263万5700円等とする本件課税事業年度の復興特別法人税の確定申告につき原告を代理し,本件復興税確定申告書を提出した。
イ 西新井税務署の職員は,平成27年2月頃,原告の法人税に関する調査を行ったところ,本件税理士法人は,上記の調査に先立ち,同税務署の職員に対し,あらかじめ,本件原告明細書に誤りがあることを伝えていた。

(3)本件各更正処分等とその後の経緯等
ア 西新井税務署長は,平成27年7月31日付けで原告に対し,別表1−1及び1−2のうち「年月日」欄に「27・7・31」との記載がある部分に対応する「区分」欄中「更正処分」欄にそれぞれ記載があるとおり,原告の本件事業年度の法人税及び本件課税事業年度の復興特別法人税の各更正の処分をした。
イ 西新井税務署長は,平成28年6月28日付けで原告に対し,別表1−1及び1−2のうち「年月日」欄に「28・6・28」との記載がある部分に対応する「区分」欄中「更正処分」欄にそれぞれ記載があるとおり,本件各更正処分等をした。
ウ 原告は,平成28年8月29日,本件各更正処分等を不服として国税不服審判所長に対して審査請求をそれぞれしたが,国税不服審判所長は,平成29年4月14日,上記の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
エ(ア)原告は,平成29年8月28日,西新井税務署長に対し,別表1−1及び1−2のうち「年月日」欄に「29・8・28」との記載がある部分に対応する「区分」欄中「更正の請求」欄にそれぞれ記載があるとおり,本件各更正の請求をそれぞれした。
(イ)西新井税務署長は,平成29年11月27日,原告に対し,本件各通知処分をそれぞれした。
(ウ)原告は,平成29年12月21日,本件各通知処分を不服として国税不服審判所長に対して審査請求をそれぞれしたが,国税不服審判所長は,平成30年6月11日,上記の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

(4)本件訴えの提起
 原告は,平成29年10月23日,第1事件に係る訴えを,平成30年4月12日,第2事件に係る訴えを,それぞれ提起した。

 
 
 別表1−1 本件事業年度に係る法人税の課税の経緯(筆者一部改)
(単位:円)
区  分 年 月 日  所 得 金 額 納付すべき法人税額 過少申告加算税の額
 @確定申告  26・11・28 518,518,516 126,347,000
 A法人税調査  27・ 2月頃 (本件原告明細書に誤りがあることを伝える)
 B更正処分  27・07・31 527,120,350 116,471,900
 C更正処分  28・06・28 527,120,350 128,540,500 219,000
 D審査請求  28・08・29 更正処分及び加算税賦課決定処分の全部取消
 E裁  決  29・04・14 破        棄
 F更正の請求  29・08・28 527,120,350 117,029,000
:
 別表1―2 本件課税事業年度に係る復興特別法人税の課税の経緯
(単位:円)
区    分 年 月 日 課税標準法人税額 納付すべき
復興特別法人税額
過少申告加算税の額
 @確定申告  26・11・28 126,360,000 12,635,700
 B更正処分  27・07・31 116,485,000 11,648,200
 C更正処分  28・06・28 128,553,000 12,855,000 21,000
 D審査請求  28・08・29 更正処分及び加算税賦課決定処分の全部取消し
 E裁  決  29・04・14 棄        却
 F更正の請求  29・08・28 117,042,000 11,703,900
:
 ※判決までの経緯
区  分 年 月 日 事  案
 G第1事件訴え  29・10・23 C(28・6・28)本件各更正処分等・本件各賦課決定処分の取消
 H本件各通知処分  29・11・27 F(29・8・28)「更正の請求をすべき理由のない旨の通知」処分
 I審査請求  29・12・21 H「更正の請求をすべき理由のない旨の通知」処分の取消
 J第2事件訴え  30・04・12 H「更正の請求をすべき理由のない旨の通知」処分の取消
 K裁  決  30・06・11 I(29・12・21審査請求)棄却
 L判  決   31・01・25 G 第1事件棄却,J 第2事件却下
 
原告の主張要約(被告主張の反論)

争点 本件特別控除について雇用者給与等支給増加額を事後的に修正することの可否
 
(ア)


(イ)

(ウ)



(エ)



(オ)



(ア)
(イ)
(ウ)


(ア)
(イ)
(ウ)
(エ)
(オ)

b
c


a
b
c

a

b
c
a
b
c
 インセンティブ措置の適用の計算誤りは、制度の趣旨に反する更正請求でない限り、更正請求は認められるべきである。
 所得税額の控除制度の単純ミスは、修正申告、更正請求が可能である。制度の内容の理由から、合理的説明ができない。
 更正請求の要件として、計算の誤りが確定申告書等の記載から客観的に看取することが可能であることは要求されていない。
 雇用者給与等支給額の一部をあえて除外することを選択して過少に算出する合理的理由はないから、正当な金額に対して過少である場合は、選択ではなく計算の誤りである。
 計算に誤りがあった場合に法令に基づき正当な金額に正すことを排斥した規定ではない。
 適用額の制限を定めた趣旨に反しない。
「確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限る」との規定は、「誤りのない正当な雇用者給与等支給増加額を基礎として計算された金額に限る」と解釈すべきである。
「確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額」とは「誤りのない正当な雇用者給与等支給増加額」を前提としている。租税公平主義を阻害する。
 公平性の原則が本件特別控除の要件解釈に妥当しないのは不自然である。
 申告の際の計算の誤りの有無によって正確な申告をした者の取扱いを区別することこそ、差別的取り扱いである。
 帳簿書類や確定申告書の作成書類の記載を基に正当に計算された税額か否かが判断されるべきである。
 本件更正請求が税務署長に実現不可能な義務を負わせるものではない。
 インセンティブ措置において、計算誤りを正当な金額へ正す余地を否定する理由はない。

 過少な特別控除による税額控除をあえて選択したと認めるべき事情は、一切存在しない。
 単純な手転記ミスに起因するもので雇用者給与等支給額の一部を選択したのではない。適用を受ける範囲を事後的に拡張する趣旨ではない。 
 所得税額控除制度では単純ミスが誤りとして修正が認められことと著しく均衡を失し、不公平である。(ミスの性質に変わりがないのに、一方は救済され、他方は救済されない)

 最高裁平成21年判決は「当該金額として記載された金額を限度とする」との文言を柔軟に解釈したものである。
 最高裁平成21年判決は、改正後のインセンティブ措置にも妥当し、単なる計算誤りを正当な金額に正す趣旨での修正は許容される。
 最高裁平成21年判決が、所得税額控除制度のみに妥当し、それ以外に一切及ばないと解する理由はない。
 帳簿書類や確定申告書の作成書類の記載か計算の誤りが明白である場合には、是正可能である。
 最高裁平成21年判決は、確定申告書の記載から明らかでない計算の誤りを理由とする更正の請求が認められる余地があることを前提としている。


【判示事項】【判決要旨】

(1) 同一の課税標準に対し同時期に行われた増額更正処分と更正の請求に理由がない旨の通知処分の双方を争う場合の訴えの利益
 増額更正処分と更正の請求に理由がない旨の通知処分は,手続的には別個独立の処分であるが,いずれも所得税の納税義務の確定に関わる処分であるところ,更正の請求に理由がない旨の通知処分は,申告された税額の減少のみに関わるのに対し,増額更正処分は,課税要件事実を全体的に見直し,申告に係る税額を含めて,全体としての納付すべき税額の総額を確定するものであって,実質的には申告に係る税額を減額しないという趣旨も含むものであるから,両者が同一の法人税の納税義務について行われた場合,増額更正処分の内容が更正の請求に理由がない旨の通知処分の内容を包摂する関係にあるということができ,したがって,増額更正処分と更正の請求に理由がない旨の通知処分がされた場合,税額等を争う納税者は,これらの処分の前後を問わず,増額更正処分の取消しを求める訴えを提起して更正の請求に理由がない旨の通知処分の違法も併せて主張して争うことにより,更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることができるものと解され,税額の全体を争うことができるのであって,これと別個に更正の請求に理由がない旨の通知処分を争う利益を有しないものと解すべきであり,そして,このように解することが,同一の法人税の納税義務に関わる2つの処分の訴訟が別個に係属することにより生ずる審理及び判断の重複又は抵触を避けるためにも相当であり,したがって,本件訴えのうち本件各通知処分の取消しを求める部分は,訴えの利益がなく,不適法であるというべきである。

(2) 租税特別措置法42条の12の4の規定する法人税額から控除される金額の意義
 租税特別措置法42条の12の4第4項は,同条1項の規定は,確定申告書等,修正申告書又は更正請求書に同項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額,控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り,適用し(前段),この場合において,同項の規定により控除される金額は,当該確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限るものとする(後段)旨を定めており,これらの規定の文言及び文理によれば,租税特別措置法42条の12の4の規定により法人税額から控除される金額は,確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限られるものと認めるのが相当である。

(3) 租税特別措置法42条の12の4の適用関係で確定申告書等添付書類記載の雇用者給与等支給増加額が異なっていたことを理由に更正の請求をすることは可能か(消極)
 租税特別措置法42条の12の4の規定により法人税額から控除される金額は,確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限られるものと認めるのが相当であるところ,仮に,真実の雇用者給与等支給増加額と確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額が異なっていたとしても,当該事実は,国税通則法23条1項1号にいう「当該計算に誤りがあったこと」には該当しないこととなるから,確定申告書等を提出した者は,税務署長に対し,真実の雇用者給与等支給増加額と確定申告書等に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額が異なっていたことを理由として,同項の規定に基づく更正の請求をすることも許されないというべきである。

(4) 最高裁判決を理由に租税特別措置法42条の12の4の特別控除の適用に当たり申告書記載額誤りに係る更正の請求は容認することはできないとされた事例
 X(原告)は,最高裁平成21年7月10日第二小法廷判決(最高裁平成21年判決)の判示に照らし,租税特別措置法42条の12の4第4項は確定申告書の記載から明らかではない計算の誤りが,適用範囲を追加的に拡張する趣旨に該当するか否かのレベルで問題になり得ることを前提としており,確定申告書の記載から明らかではない計算の誤りを理由とする更正の請求が認められる余地があることを前提としているといえる旨主張するが,仮に,最高裁平成21年判決の判示について,確定申告書の記載から明らかではない計算の誤りを理由とする更正の請求が認められる余地があると解することを前提としたとしても,最高裁平成21年判決は,確定申告書に添付された書類の記載から,その所有する株式の全銘柄に係る所得税額の全部を対象として,法令に基づき正当に計算される金額につき,所得税額の控除の制度の適用を受けることを選択する意思であったことを見て取れる事案であり,本件とは事案を異にしているから,Xがした本件各更正の請求が認容されることを裏付けることにはならないというべきである。
 
別表2−1 本件事業年度の法人税に係る所得金額及び納付すべき金額(28・6・28更正処分)
(単位:円)
区  分 金  額
 所
 得
 金
 額
 申告所得金額 @ 518,518,516
 加算額  仕入過大計上額 A 90,804,901
 減算額  棚卸過大計上額 B 82,203,067
 所得金額(@+A−B) C 527,120,350
 所得金額に対する法人税 D 133,575,600
 法人税額の
 特別控除額
 中小企業者等が機械等の取得をした場合の法人税額の特別控除 E 117,600
 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除 F 4,904,101
 法人税額の特別控除額(E+F) G 5,021,701
 控除所得税額 H 13,312
 納付すべき法人税額(D−G−H、100円未満の端数切捨て) I 128,540,400
 既に納付の確定した法人税額 J 116,471,900
 差し引き納付すべき法人税額(I−J) K 12,068,600

別表2―2 本件課税事業年度の復興特別法人税に係る課税標準法人税額及び納付すべき税額(28・6・28更正処分)
(単位:円)
区  分 金  額
 課税標準法人税額の計算  基準法人税額の計算  申告基準法人税額 @ 126,360,389
 加算額  増加した所得金額に対する法人税額 A 2,193,510
 基準法人税額(@+A) B 128,553,899
 課税標準法人税額(@+A) C 128,553,000
 課税標準法人税額に対する復興特別法人税額 D 12,855,300
 控除税額 E 273
 納付すべき復興特別法人税額(D−E、100円未満の端数切捨て) F 12,855,000
 既に納付の確定し復興特別法人税額 G 11,648,200
 差引納付すべき復興特別法人税額 H 1,206,800


 

Top▲

▲Contents

損害賠償事例



税理士職業賠償責任保険事故事例
(2017年7月1日〜2018年6月30日)

雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除(所得拡大税制)の適用失念(67件)


所得拡大促進税制における「基準雇用者給与等支給額」の記載誤りにより過大納付となった事例
<事故の概要>
 税理士は、平成28年4月期の法人税の申告において、「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」を適用して申告したが、適用に当たり添付すべき「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(以下「計算に関する明細書」)の「基準雇用者給与等支給額」欄に、平成25年4月期の給与支給額を記すべきところ、誤って、平成26年4月期の給与支給額を計算してしまった。
 これにより「雇用者給与等支給増加額」が過少となり、結果として過大納付法人税額等が発生したため損害賠償をうけた。
<コメント>
 税理士は、依頼者が平成28年4月期に上記税額控除の条件を満たしたため、上記税額控除を適用して申告した。しかし、控除を受けるための「計算に関する明細書」の記載において、「基準雇用者給与等支給額」の金額を平成25年4月期の給与支給額を記載すべきところ平成26年4月期の給与等支給額を記載して申告したため、税額控除額が少なくなり、その結果、過大納付法人税税額等が発生した。
 上記税額控除に関しては、措置法の規定により「計算に関する明細書」に記載された「雇用者給与等支給増加額」の限度額内であれば更正の請求が認められるが、本件事故においては、申告時に記載した「雇用者給与等支給増加額」が誤っていたため、当該手続きは認められなかった。
 税理士の確認不足から記載すべき金額を誤ったものであり、正当な金額を記載していれば過大納付額は発生していなかったことから、税理士に責任ありと判断された。
 その結果、平成25年4月期の給与支給額を正しく記載いていれば税額控除できた額と、平成26年4月期の給与支給額を誤って記載したことで税額控除できた額との差額約1,100万円を認容損害額とし、免責金額30万円を控除した約1,070万円が保険金として支払われた。

(2018年7月1日〜2019年6月30日)

雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除(所得拡大税制)の適用失念(54件)
雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除(所得拡大税制)の計算誤り

所得拡大促進税制適用において、転記すべき金額を誤って記載したため過大納付となった事例
<事故の概要>
 税理士は、平成28年5月、依頼者法人の平成28年3月期法人税の申告において、雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(所得拡大促進税制)の適用にあたり添付すべき別表6(19)の雇用者給与等支給額を誤って記載し、申告書を提出した。
 その後、依頼者法人が税務調査を受け、所得拡大促進税制にかかる別表6(19)雇用者給与等支給額の誤記載に気付き、本件過誤が発覚した。
 平成29年9月、税務署より所得拡大促進税制にかかる別表6(19)雇用者給与等支給額誤記載分について、当初申告書記載額に限られるとして更正通知書が発遣された。
 その後、税理士は審査請求及び東京地裁へ訴訟提起をおこなったがいずれも認められず、結果として依頼者法人から損害賠償請求を受けた。
<事故発覚の経緯>
 依頼者法人が税務調査を受けた際に税理士が支給額を誤記載した事実に気付き発覚した。
<事故の原因>
 税理士が、雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(所得拡大促進税制)の適用に当たり、別表6(19)の雇用者給与等支給額の記載を誤り、平成28年3月期法人税確定申告書を作成提出したため。
<税賠保険における判断>
 税理士の確認不足から雇用者給与等支給額の記載を誤ったものであり、正当な金額を記載していれば過大納付税額は発生しなかったことから、税理士に責任ありと判断された。
<支払保険金>
 過大納付となった法人税額・県民税額・市民税額約1,300万円を認容損害額とし、免責金額30万円を控除した約1,270万円が保険金として支払われた。
 
所得拡大促進税制の適用失念により過大納付となった事例
<事故の概要>
 税理士は、平成28年3月期から平成30年3月期法人税確定申告書作成の際、所得拡大促進税制適用について検討を怠り、申告書を作成して提出した。
 平成31年2月、依頼者法人の経理担当者より指摘を受けて確認した結果、依頼者法人は要件を満たしており税額控除することが可能であったことが発覚した。
 依頼者法人へ報告したところ、税額控除できずに過大納付となった税額及び損害賠償金の益金算入に伴う税負担額について、依頼者法人から損害賠償請求をうけた。
<事故発覚の経緯>
 依頼者法人の経理担当者より所得拡大促進税制の適用失念の指摘を受け発覚した。
<事故の原因>
 税理士が、平成28年3月期から平成30年3月期の所得拡大促進税制の適用についての検討を怠り、法人税確定申告書を作成して提出したため。
<税賠保険における判断>
 税理士が、依頼者法人について所得拡大促進税制の適用を検討し、税額控除がされていれば過大納付税額は発生しなかったことから、所得拡大促進税制の適用を怠ったことは税理士に責任ありと判断された。
<支払保険金>
 平成28年3月期から平成30年3月期の過大納付法人税額・住民税額約1,200万円を認容損害額とし、免責金額30万円を控除した約1,170万円が保険金として支払われた。
 なお、保険約款上において「被害者が被保険者から受け取り損害賠償金を雑収入その他の益金として計上することにより、被害者が納付すべき法人税・所得税、住民税その他の租税の額が増加したことに起因する損害は含みません(※)」と定められていることから、損害賠償金の益金算入に伴う増加税額については保険金支払いの対象額と判断された。
(※)損保ジャパン日本興亜社:税理士特約条項 第1条(2)
東京海上日動社;税理士職業危険特別約款 第1条(2)


 
(2019年7月1日〜2020年6月30日)

雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除(所得拡大税制)の適用失念(32件)

所得拡大促進税制の適用失念により過大納付法人税額が発生した事例
<事故の概要>
 税理士は、依頼者法人の平成29年3月期以前について、雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(雇用拡大促進税制)を適用することを失念してしまった。
 依頼者法人へ報告したところ、後日、税理士は依頼者法人から内容証明郵便にて損害賠償請求をする旨の通知を受領した。
<事故発覚の経緯>
 依頼者法人より、社員給与増加による節税対策適用報告書の有無に関する質問があり税理士が確認したところ、平成30年3月期は適用しているが、平成29年3月期以前については、雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(雇用拡大促進税制)を適用していないことに気づき発覚した。
<事故の原因>
 税理士は毎年の税制改正について研修等で学んでいたが、不注意から本事例において適用することを失念してしまったため。
<税賠保険における判断>
 依頼者法人の平成27年3月期と平成28年3月期の雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(所得拡大促進税制)の適用を怠り、法人税確定申告書を作成提出したことは、税理士に責任ありと判断された。
<支払保険金>
 過大納付法人税額約700万円を認容損害額とし、免責30万円を控除した670万円が保険金として支払われた。
 

Top▲

▲Contents

話題の裁決



国税不服審判所/裁決/令和元年6月27日
父の預金口座から出金され、その子である審査請求人の預金口座へ入金された金銭の移動をもって、父から子への贈与に当たるか否かが争われた事例
銭消費貸借契約の締結がなかった事実のみをもって審査請求人と父との間に贈与についての黙示の合意があったと認めることはできないとした事例。
LEX/DB26013024/TKCLawLibrary(260)

 

Top▲

▲Contents











*

裁判例(2)

147-2



第147回判例研究会 役員給与における「不相当に高額な部分の金額」の意義
東京地裁 令和2年1月30日判決(第1審)LEX/DB 25582001 
【選定の理由】
本件は、自動車の輸入事業等を目的とする内国法人が、その代表取締役の一人に支給した役員給与の全額を損金に算入して申告をしたところ、課税庁が、本件役員給与の額には、法人税法34条2項に定める「不相当に高額な部分」があるとして法人税の更正処分等を行ったことに対して、その取り消しを求める事案である。 
 この争点は、本件役員給与のうち、「不相当に高額な部分」(法人税法34条2項)の有無及びその金額である。 
 この争点を考察するうえでは、法人税法34条2項の趣旨、目的は何か、「不相当に高額な部分」とは何か、その判断基準は何か、などが問題となる。そもそも法人税法は、なにゆえに過大な役員給与を規制すべきかも問題となる。 
 法理論上は、@平成18年の役員給与に関する法人税法改正の意味、A判定基準の一つとして、類似法人の抽出、選定方法、適正金額の判定方法はどうあるべきか、などが問われるであろう。従前の東京地裁平成28年4月22日判決(泡盛酒造会社事件、残波事件ともいう)も参考になる。 
【事案の概要】(P62)
 本件は,X(原告)が,Xの代表取締役の一人であるP4に支給した給与の全額を損金の額に算入して申告したところ,処分行政庁は,役員給与の額には法人税法34条2項に規定する不相当に高額な部分があり,同部分の額を損金の額に算入することはできないなどとして,Xに対し,法人税の更正処分等をしたことから,同処分等の一部取消しを求める事案である。判決は,原告の主張を認めなかった。 
【判決要旨】(P79)
 本件役員給与に「不相当に高額な部分」があることは明らかというべきであり、そして、その部分の金額は、原告の売上げを得るために本件代表者が果たした職責及び達成した業績が相当高い水準にあったことに鑑み、当該調査対象事業年度における本件各抽出法人の役員給与の最高額を超える部分がこれに当たると認めるのが相当である。

関係法令の定め
 法人税法34条2項は,内国法人がその役員に対して支給する給与(以下「役員給与」という。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない旨規定する。そして,同項の委任を受けた法人税法施行令70条1号は,上記「不相当に高額な部分の金額」の判定について二つの基準を設けている。
(1)実質基準
当該役員の職務の内容,当該内国法人の収益及び使用人に対する給与の支給の状況,当該内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの(以下「同業類似法人」という。)の役員給与の支給状況等に照らし,当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超えるか否かによって判定
(2)形式基準
定款の規定又は株主総会等の決議により定められた役員給与の限度額を超えるか否かによって判定

「実質基準において相当な金額を超える部分」及び「形式基準において限度額を超える金額」のうちいずれか多い金額が,「不相当に高額な部分の金額」に含まれる

【参考条文等】
法人税法(平成28年法律15号による改正前)
(役員給与の損金不算入)
第34条 (略)
2 内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
3〜6 (略)
法人税法施行令(平成29年政令第106号による改正前)
(過大な役員給与の額) 
第70条 法第34四条第2項(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、次に掲げる金額の合計額とする。
一 次に掲げる金額のうちいずれか多い金額
イ 内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した給与(法第34四条第2項に規定する給与のうち、退職給与以外のものをいう。以下この号において同じ。)の額(第3号に掲げる金額に相当する金額を除く。)が、当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額(その役員の数が二以上である場合には、これらの役員に係る当該超える部分の金額の合計額)
ロ 定款の規定又は株主総会、社員総会若しくはこれらに準ずるものの決議により役員に対する給与として支給することができる金銭の額の限度額若しくは算定方法又は金銭以外の資産(ロにおいて「支給対象資産」という。)の内容(ロにおいて「限度額等」という。)を定めている内国法人が、各事業年度においてその役員(当該限度額等が定められた給与の支給の対象となるものに限る。ロにおいて同じ。)に対して支給した給与の額(法第34条第5項に規定する使用人としての職務を有する役員(第3号において「使用人兼務役員」という。)に対して支給する給与のうちその使用人としての職務に対するものを含めないで当該限度額等を定めている内国法人については、当該事業年度において当該職務に対する給与として支給した金額(同号に掲げる金額に相当する金額を除く。)のうち、その内国法人の他の使用人に対する給与の支給の状況等に照らし、当該職務に対する給与として相当であると認められる金額を除く。)の合計額が当該事業年度に係る当該限度額及び当該算定方法により算定された金額並びに当該支給対象資産(当該事業年度に支給されたものに限る。)の支給の時における価額に相当する金額の合計額を超える場合におけるその超える部分の金額(同号に掲げる金額がある場合には、当該超える部分の金額から同号に掲げる金額に相当する金額を控除した金額)
二 内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額
 三 (略)



※ 役員報酬  → 役員給与 役員退職給与 (適正額損金算入)
                             役員賞与(損金不算入)

【判示事項】/【判決要旨】
(1) 役員給与のうち「不相当に高額な部分の金額」を損金不算入とした趣旨。
法人税法22条3項2号は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の損金の額に算入する旨規定し、そして、その別段の定めとして、同法34条1項は、内国法人がその役員に対して支給する給与(役員給与)のうち、所定の例外として定める給与に該当しないものの額は、損金の額に算入しない旨規定し、さらに、上記例外に係る役員給与(例えば、同項1号に定める定期同額給与)についても、同条2項は、「不相当に高額な部分の金額」として政令で定める金額は損金の額に算入しない旨規定し、役員給与は、同法22条3項2号に規定された費用の一種ではあるものの、法人と役員との関係に鑑みると、役員給与の額を無制限に損金の額に算入することとすれば、法人において役員給与の支給額をほしいままに決定し、法人の所得の金額を殊更に少なくすることにより、法人税の課税を回避するなどの弊害が生ずるおそれがあり、そこで、法人税法34条は、上記別段の定めを設け、損金の額に算入される役員給与を上記のような弊害がないと考えられるものに限定することにより、役員給与の金額決定における恣意性の排除を図り、もって課税の公平性を確保したものと解される。
 
(2) 売上総利益が減少傾向にある中での本件役員給与の額の高さ及び増加率は著しく不自然であると評価せざるを得ないとした事例。
本件役員給与は、他の役員に支給された役員給与と比べて著しく高額であるばかりでなく、X社(原告)の収益が、本件各事業年度を通じて減少傾向にあり、使用人に対する給与の支給額も横ばいないし緩やかな減少傾向にある中で、これに逆行する形で急増しており、その結果、X社の改定営業利益(p.91営業利益+本件役員給与)の大部分を占めることとなって、X社の営業利益を大きく圧迫するに至っているのであり、このことに鑑みると、本件代表者の職務内容やX社の売上げを得るために本件代表者が果たした職責等に照らしても、本件役員給与の額の高さ及び増加率は著しく不自然であると評価せざるを得ない。
 
(3) 同業類似法人の役員給与の支給状況等を把握するために原処分庁が採用した抽出基準は合理的であるとした事例。
原処分庁は、本件抽出基準等に基づいて本件各抽出法人を抽出しているところ、その概要は、〔1〕埼玉県内の各税務署の管轄区域(春日部税務署及びこれに隣接する6つの税務署の管轄区域である第1次対象区域のほか、それ以外の埼玉県内の8つの税務署の管轄区域である第2次対象区域を含む。)を対象に、〔2〕日本標準産業分類における大分類「〈1〉−卸売業、小売業」の中分類「54−機械器具卸売業」の小分類「542自動車卸売業」を基幹の事業とし、〔3〕売上金額が原告の売上金額の2分の1から2倍までの範囲にある法人で、〔4〕代表取締役に対して役員給与の支給があり、かつ、争訟の係属していないものであることを要するというものであり、本件抽出基準等は、原告の同業類似法人を抽出する基準及び抽出対象区域として合理的なものである。(p.88-89)

TKCBAST ×

(4) 同業類似法人の役員給与の支給状況等を把握するために原処分庁が抽出に用いた抽出基準は不合理であるとの原告の主張を排斥した事例。
X(原告)は、原処分庁が抽出した本件各抽出法人は、(a)従業員数が原告よりも大幅に多い、(b)改定営業利益について原告の半額以下である法人が含まれている、(c)従業員単位売上等がXよりも大幅に少ない、(d)主たる事業の内容がXと異なる法人が含まれている、(e)Xと異なり他の企業からの独立性を有していない法人が含まれている等の理由により、原告とは事業の規模ないし性質を異にしているから、本件各抽出法人はXの同業類似法人に当たらず、また、その抽出に用いられた本件抽出基準の内容自体も不合理であると主張するが、同業類似法人の役員に対する給与の支給状況は、法人税法施行令70条1号イが規定する「当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額」を超えるか否か等を判断するための比較対象の一つにすぎないものであるし、同業類似法人の抽出に当たって、事業の規模ないし性質の厳格な同一性を要求する場合には、事業の内容や規模等に特徴的な要素がある法人について、比較に十分な数の同業類似法人を抽出することが困難になり、法人税法34条及び法人税法施行令70条1号イが法人の役員給与の金額決定における恣意性の排除を図り、もって課税の公平性を確保しようとした趣旨を没却するおそれがあり、上記の規定が「同種の事業」、「事業規模が類似」との文言を用いているのも、上記の「相当であると認められる金額」を判断するための比較対象に用いられる法人の抽出に当たり、事業の規模ないし性質の厳格な同一性までは要求されないことを前提としたものと解され、そして、上記(a)〜(c)においてXが主張する、従業員数、改定営業利益及び従業員単位売上等は、それぞれ、事業規模の類似性を判断する一要素となり得るものであるが、他方で、売上金額も事業規模を図るのに有用で明確な経済指標であり、これのみでも事業規模の類似性を判断するのに足りるものであって、上記のとおり同業類似法人の抽出に当たって事業の規模ないし性質の厳格な同一性まで要求されるものではない以上、事業規模の類似性を判断するために上記(a)〜(c)の主張に係る各要素について重ねて考慮しなければならないものとはいえず、これらが考慮されていないことをもって、本件抽出条件が不合理であるということはできない。
 
(5) 同業類似法人の抽出対象区域を埼玉県内に限るのは合理的でないとの原告の主張を排斥した事例。
X(原告)は、インターネット経由で中古自動車を落札してマレーシアに輸出というXの業態に照らせば、日本国内における地域的な影響は無視することができる上、埼玉県内にはXと同様の中古自動車の輸出業を営む法人は少ないのであるから、抽出対象区域を埼玉県内に限るのは合理的ではなく、更に拡大すべきである旨主張するが、Xは、埼玉県内に本社事務所を有し、使用人に給与を支給して事業を行っているのだから、事務所の維持管理に係る費用や人件費等の点で地域的な影響を受けていることは否定できず、また、合理的な本件抽出基準をもって、第1次対象区域及び第2次対象区域における抽出を行った結果、比較に必要かつ十分な数の法人が現に抽出できている以上、抽出対象地域を拡大しないことが合理性を欠くものとはいえず、したがって、Xの上記主張は採用することができない。
 
(6) 本件役員給与の額は、本件代表者の職務内容や職責等を踏まえても合理的範囲を超えるとした事例。
本件役員給与の支給状況と本件各抽出法人の役員給与の支給状況とを比較すると、平成23年7月期に係る本件役員給与の額は、これに対応する調査対象事業年度における本件各抽出法人の最高額と比較しても約4倍、金額にして約2億円高額となっており、しかも、本件役員給与は本件各事業年度を通じて2〜4倍増加したため、両者の較差は年度ごとに拡大し、平成27年7月期に係る本件役員給与の額は、本件各抽出法人の最高額の約10倍、金額にして約4億7000万円高額となるに至っており、このような役員給与の支給状況の較差は、本件代表者の職務内容や原告の売上げを得るために本件代表者が果たした職責等を踏まえても、合理的な範囲を超えるものといわざるを得ない。
(Y単純に倍数、超過金額で判断)

(7) 抽出した同業類似法人の役員給与支給額として認定すべき額は、損金の額に算入された役員給与の額とするのが相当とした事例。
X(原告)は、本件抽出法人1の代表取締役に対する役員給与支給額として認定された額に、損金の額に算入されていない役員給与の額が含まれていないことについて、不相当である旨主張するが、Xの同業類似法人を抽出する目的は、代表取締役である本件代表者の役員給与のうちに損金の額に算入することができない「不相当に高額な部分」があるか否かを判断する際の比較対象を得る点にあるのだから、同業類似法人の役員給与支給額として認定すべき額は、損金の額に算入された役員給与の額とするのが相当であり、したがって、Xの上記主張は採用することができない。
 
(8) 本件役員給与の「不相当に高額な部分」は本件各抽出法人の役員給与の最高額を超える部分がこれに当たるとした事例。
本件役員給与に「不相当に高額な部分」があることは明らかというべきであり、そして、その部分の金額は、原告の売上げを得るために本件代表者が果たした職責及び達成した業績が相当高い水準にあったことに鑑み、当該調査対象事業年度における本件各抽出法人の役員給与の最高額を超える部分がこれに当たると認めるのが相当である。
 
(9) 本件役員給与のうち「不相当に高額な部分」に当たるのは、本件各抽出法人の役員給与の平均額を超える部分であるとの原処分庁の主張を排斥した事例。
Y(被告原処分庁)は、その主位的主張として、本件役員給与のうち「不相当に高額な部分」に当たるのは、本件各抽出法人の役員給与の平均額を超える部分であると主張するが、本件抽出基準等によるX(原告)の同業類似法人の抽出が必ずしも厳密な事業の規模ないし性質の同一性の要求の下にされたものでないところ、Xの売上げを得るために本件代表者が果たした職責及び達成した業績等の本件における事情に鑑みると、上記の平均額を超える部分を全て「不相当に高額な部分」に当たるものとした場合、本件代表者の職務に対する対価として不相当と認めるべきでない部分が含まれることになってしまうおそれがあり、そうすると、上記のような本件の事情の下では、本件各抽出法人の役員給与の最高額を超える部分をもって「不相当に高額な部分」に当たると認めるのが相当であるから、Yの上記主張は採用することができない。
 
(10)本件役員給与の額に係る「不相当に高額な部分」は、更正処分をされていない直近事業年度の平均額を超える部分の金額とすべきとの原告の主張を排斥した事例。
X(原告)は、その予備的主張として、本件各事業年度における売上金額や改定営業利益が、平成21年7月期及び平成22年7月期の平均額とおおむね同水準又は同水準以上であることに鑑みれば、役員給与として相当と認められる金額は、上記各事業年度において本件代表者に支給された役員給与の平均額(1億2800万円)を下回るものではないから、「不相当に高額な部分」の金額は、上記平均額を超える部分に限られると主張するが、Xが主張する1億2800万円という金額は、上記各事業年度に対応する本件各抽出法人の役員給与の最高額を大幅に上回るものであることが推認され、Xの上記主張は、上記各事業年度において本件代表者に支給された役員給与の額に「不相当に高額な部分」がないことを前提にするものであるところ、上記各事業年度に係る法人税について更正処分がされていないことをもって、これらの年度において本件代表者に支給された役員給与の額に「不相当に高額な部分」がないと認めることはできず、そして、そのほかに、これを認めるに足りる証拠はないのであるから、Xの予備的主張はその前提を欠くものであって、採用することができない。

Top▲

▲Contents

資本金1億円以下の会社の8つの利点

令和2年4月1日現在法令等(最新情報は国税庁要確認)

 # 目 次
 1.資本金とは
      (1) 資本金はいくらにすべきか
 2.資本金1億円以下の会社のメリット
  (1)軽減税率が適用される
  (2)年800万円以下の交際費枠がある
  (3)繰越欠損金が控除される
  (4)繰越欠損金が繰戻還付される
  (5)少額減価償却資産の損金算入特例が適用される
  (6)特別控除、特別償却が適用される
  (7)同族会社の留保金課税が適用されない
  (8)外形標準課税が適用されない
 3.資本金1,000万円未満だとさらにお得
   (1) 消費税が2年間免税される
   (2) 法人住民税が安い
 4.まとめ
 
 
◎ ポイント
 

 ▶ 資本金の額が1億円以下の会社は、税務上多くのお得な規定が適用される。
 ▶ 資本金1,000万円未満だと、税務上さらにお得になる。
 ▶ 特別控除、特別償却は、ほとんどが資本金1億円以下の法人のみが対象。
 
 

資本金が1億円以下の法人については、税務上「中小企業」と位置づけられ、一定の優遇措置が適用されます。
つまり、資本金が1億円を超えるかどうかで納税額に大きな差が出ることになります。
ここでは、資本金1億円以下の会社の8つのメリットについてご紹介します。

 

資本金とは

資本金とは、会社設立の際や増資の際に、出資者から払い込まれた資金のことをいいます。資本金が増額されたり減額されたりした時には、資本金という勘定科目で処理をします。

なお、会社設立の際に払い込まれた資金のうち、半分は資本金ではなく資本準備金とすることもできます。資本準備金とは、会社の業績が悪化した時に備えて積み立てておく資金のことです。


(1)資本金はいくらにすべきか
資本金の額は会社の規模や体力を表すので、「多ければ多いほどよい」と思われる方も多いでしょう。確かに資本金が多いと、取引先の印象が良くなるケースが多いのは事実です。

資本金とは、会社設立の際や増資の際に、出資者かしかし、資本金を1,000万円以上にすると、最初の年から消費税の課税事業者となりますし、1億円を超えると一気に税負担が重くなります。

税務上は、資本金の額が1億円以下の会社は「中小企業」と位置づけられるので、税務上多くのお得な規定が適用されるようになるからです。

資本金とは、会社設立の際や増資の際に、出資者かしたがって、資本金の額を定める場合には1,000万円を超える場合と1億円を超える場合でラインがあるということを踏まえて検討する必要があります。

 

▲目次

資本金1億円以下の会社のメリット

資本金が1億円以下の会社は、軽減税率が適用されたり、年800万円の交際費枠があったり、繰越欠損金を全額控除できるなど、さまざまなお得な規定が適用されます。
ただし、親会社の資本金の額が5億円以上あって、その親会社が株式を100%保有する完全子会社を設立した場合には、その子会社は実質的には中小企業ではないとみなされ、優遇措置が適用されなくなります。


(1)軽減税率が適用される
資本金1億円超の法人の場合には、法人税率は23.2%です。
一方、資本金1億円以下の会社は年800万円までの所得については15%で年800万円を超えると、23.2%となります。
つまり、年800万円までの税率が軽減されるので、その分節税することができるというわけです。

参照:国税庁「法人税の税率」
No.5759 法人税の税率
[令和3年9月1日現在法令等]
対象税目
法人税
概要
法人税の税率は、次表の法人の区分に応じ、それぞれ次表のとおりとされています。
なお、次表の【 】は、協同組合等または特定の医療法人が連結親法人である場合の税率です。

税率

区分 適用関係(開始事業年度)
平28.4.1以後 平30.4.1以後 平31.4.1以後
普通法人 資本金1億円以下の法人など(注1) 年800万円以下の部分 下記以外の法人 15% 15% 15%
適用除外事業者 19%(注2)
年800万円超の部分 23.40% 23.20% 23.20%
上記以外の普通法人 23.40% 23.20% 23.20%
協同組合等(注3) 年800万円以下の部分 15% 15% 15%
【16%】 【16%】 【16%】
年800万円超の部分 19% 19% 19%
【20%】 【20%】 【20%】
公益法人等 公益社団法人、公益財団法人または非営利型法人 収益事業から生じた所得 年800万円以下の部分 15% 15% 15%
年800万円超の部分 23.40% 23.20% 23.20%
公益法人等とみなされているもの(注4) 年800万円以下の部分 15% 15% 15%
年800万円超の部分 23.40% 23.20% 23.20%
上記以外の公益法人等 年800万円以下の部分 15% 15% 15%
年800万円超の部分 19% 19% 19%
人格のない社団等 年800万円以下の部分 15% 15% 15%
年800万円超の部分 23.40% 23.20% 23.20%
特定の医療法人
(注5)
年800万円以下の部分 下記以外の法人 15% 15% 15%
【16%】 【16%】 【16%】
適用除外事業者 19%(注6)
【20%(注6)】
年800万円超の部分 19% 19% 19%
【20%】 【20%】 【20%】
(注1) 対象となる法人は以下のとおりです。
(1) 各事業年度終了の時において資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるものまたは資本もしくは出資を有しないもの((注5)に掲げる特定の医療法人を除きます。)。ただし、各事業年度終了の時において次の法人に該当するものについては、除かれます。
イ 相互会社および外国相互会社
ロ 大法人(次に掲げる法人をいいます。以下同じです。)との間にその大法人による完全支配関係がある普通法人
(イ) 資本金の額または出資金の額が5億円以上の法人
(ロ) 相互会社および外国相互会社
(ハ) 受託法人
ハ 100パーセントグループ内の複数の大法人に発行済株式または出資の全部を直接または間接に保有されている法人(ロに掲げる法人を除きます。)
ニ 投資法人
ホ 特定目的会社
ヘ 受託法人
(2) 非営利型法人以外の、一般社団法人および一般財団法人
(注2) 平成31年4月1日以後に開始する事業年度において適用除外事業者(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等をいいます。以下同じです。)に該当する法人の年800万円以下の部分については、19パーセントの税率が適用されます。
(注3) 協同組合等で、その事業年度における物品供給事業のうち店舗において行われるものに係る収入金額の年平均額が1,000億円以上であるなどの一定の要件を満たすものの年10億円超の部分については、22パーセントの税率が適用されます。
(注4) 公益法人等とみなされているものとは、認可地縁団体、管理組合法人および団地管理組合法人、法人である政党等、防災街区整備事業組合、特定非営利活動法人ならびにマンション建替組合およびマンション敷地売却組合をいいます。
(注5) 特定の医療法人とは、措法第67条の2第1項に規定する国税庁長官の認定を受けたものをいいます。
(注6) 平成31年4月1日以後に開始する事業年度において適用除外事業者に該当する法人の年800万円以下の部分については、19パーセント(その特定の医療法人が連結親法人である場合には、20パーセント)の税率が適用されます。
根拠法令等
法法66、81の12、143、措法42の3の2、67の2、68、68の8、68の100、68の108、平28改正法附則21、26、27、29

(2)年800万円以下の交際費枠がある
資本金1億円超の法人の場合には、取引先との飲食代などの交際費の50%が損金算入されます。
一方、資本金1億円以下の法人の場合には、年800万円以下の交際費枠があり「外部との飲食代の50%」「年間800万円」のうち、いずれか多い金額について損金に算入することができます。

つまり、年間800万円まで無条件に損金に算入することができるので、節税効果があります。

参照:国税庁「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」


(3)繰越欠損金が控除される
資本金1億円超の法人の場合、過去10年以内に発生した繰越欠損金のうち、その事業年度の所得金額の100分の50までを当期の所得金額から控除することができます。
これに対して資本金が1億円以下の法人の場合には、過去10年以内に発生した繰越欠損金のうちその事業年度の所得金額までを控除することができます。

つまり、当期の所得金額と過去10年以内に発生した繰越欠損金を比較して、繰越欠損金のほうが多い場合には、当期の所得をゼロにすることができます。

参照:国税庁「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」


(4)繰越欠損金が繰戻還付される
繰越欠損金の繰戻還付とは、青色申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合に、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度に繰り戻して、法人税額の還付を請求できるという制度です。

この繰越欠損金の繰戻還付の制度は、資本金1億円超の法人の場合には適用されず、資本金が1億円以下の法人のみに適用される優遇措置です。

たとえば、前期で1,000万円の課税所得があり150万円の法人税を納めたとします。
ところが当期1,000万円の欠損となった時には、前期支払った150万円の法人税の還付を受けられることになりますので、大きな節税効果があります。

参照:国税庁「欠損金の繰戻しによる還付」


(5)少額減価償却資産の損金算入特例が適用される
固定資産を取得した場合には、法定耐用年数に応じて減価償却を行うのが原則です。
しかし、資本金1億円以下の法人が30万円未満の固定資産を取得した場合には、年間300万円までその全額を損金に算入することができます(平成18年4月1日から令和4年3月31日まで)。

参照:国税庁「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」


(6)特別控除、特別償却が適用される
特別控除、特別償却の多くは租税特別措置法によって定められる期間限定の特例です。

特別控除、特別償却としては、たとえば以下のような制度があります。
 
・中小企業投資促進税制
・中小企業経営強化税制
・商業・サービス業・農林水産業活性化税制
・中小企業技術基盤強化税制
・高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の税額控除
・環境関連投資促進税制(エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の税額控除)
・給与等の引上げ及び設備投資等を行った場合等の税額控除(中小企業者等の特例)

これらの特例は、ほとんどが資本金1億円以下の法人のみが対象となっていたり、より多くの控除額が認められたりするなどの規定となっています。
前述したとおり期間限定のものが多く、要件も変更されるので、これらの制度を利用する時には慎重に確認するようにしましょう。

参照:国税庁「特別償却・特別税額控除」


(7)同族会社の留保金課税が適用されない
「留保金課税制度」とは、特定の同族会社(株主1グループで50%以上の株式保有等)が、利益を配当しないで内部留保した場合には、課税留保金額に10〜20%を乗じた金額が、通常の法人税とは別に課税されてしまうという制度です。

この制度は、資本金1億円超の法人の場合には対象となりますが、資本金1億円以下の法人については適用されません。

参照:国税庁「特別税率を適用されない特定同族会社の範囲」
   税額計算の改正(同族会社の留保金課税制度)

(8)外形標準課税が適用されない
「外形標準課税」とは、地方税を計算する時に赤字でも課税できるようにするために、所得だけでなく報酬給与や資本金、賃借料などに対しても税金を課すという課税方式のことをいいます。

この外形標準課税によって、資本金1億円超の法人については所得割のほかに付加価値割および資本割が課されることになります。
付加価値割は、報酬給与、賃借料、純支払利子と単年度損益を課税標準とし、資本割は資本金等の額を課税標準として課税されます。

この外形標準課税は、資本金1億円以下の法人には適用されません。

参照:国税庁「【改正】(事業税の損金算入の時期の特例)」


 

▲目次

資本金1,000万円未満だとさらにお得

これまでご紹介したように、資本金が1億円以下と1億円超では、1億円以下の方が多くのメリットがありますが、資本金1,000万円未満だと税制面でさらにお得にあります。

(1)消費税が2年間免税される
資本金1,000万円以下未満の法人は、最初の2期の消費税が免税されます。
ただし1期目の半期の売上高または給与の支払額が1,000万円を超えると、2期目は消費税の課税事業者になります。ところが資本金1,000万円未満であれば、1期目の消費税は免税されます。
ただし、資本金の額に関わらず1年目に多額の設備投資を行うなど、預かった消費税より支払った消費税のほうが多い場合には、その支払った分だけ還付してもらうこともできます。

(2)法人住民税が安い
法人住民税の均等割とは、たとえ会社が赤字でも毎年納めなければならない税金です。
この均等割は、資本金の額によって異なります。
従業員が50人の場合で資本金が1,000万円以下なら7万円ですが、1,000万円を超えると18万円になります。
 
 

▲目次

まとめ

以上、資本金1億円以下の会社の税制上の8つのメリットについてご紹介しました。
資本金の額が多いと税務上不利になることが多く、特に1,000万円を超える場合と1億円を超える場合で取り扱いに大きな差があります。
もちろん、資本金が税制上のメリットだけで定めるものではありませんが、この1,000万円を超えるラインと1億円を超えるラインについて十分検討したうえでえ、会社の状況(許認可の取得など)にあった資本金の額を決定するようにしましょう。
 
(注)https://advisors-freee.jp/article/category/cat-big-04/cat-small-11/8049/(一部改)

 

Top▲

▲Contents


東京江戸タワー(東京スカイツリー)
 

お問合せ


山下真茂留税理士事務所はTKC全国会会員です
写真
 TKC全国会は租税正義の実現をめざし
 関与先企業の永続的繁栄に奉仕する
 わが国最大級の職業会計人集団です
関東信越税理士会所属
Tax Lawye   Tax Auditor
 Professional Accountant
 Management Consultant
 大同生命保険株式会社代理店
 東京海上日動火災保険株式会社代理店
 

山下真茂留税理士事務所

Access  (交通案内)

Contact Us(お問合せ)

Coffee Break

Teatime

Site Map


〒350-1314 埼玉県 狭山市 加佐志 167-2 株式会社 蒲公英/山下真茂留税理士事務所 ☎04(2946)7704