税制改正大綱

令和5年度税制改正大綱概要


令和5年度税制改正の大綱の概要
(令和4年 12 月 23 日 閣議決定)

 家計の資産を貯蓄から投資へと積極的に振り向け、資産所得倍増につなげるため、NISAの抜本的拡充・恒久化を行うとともに、スタートアップ・エコシステムを抜本的に強化するための税制上の措置を講ずる。また、より公平で中立的な税制の実現に向け、極めて高い水準の所得について最低限の負担を求める措置の導入、グローバル・ミニマム課税の導入及び資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築を行う。加えて、自動車重量税のエコカー減税や自動車税等の環境性能割等を見直す。租税特別措置については、それぞれの性質等に応じ適切な適用期限を設定する。具体的には、Tのとおり税制改正を行うものとする。
 また、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置について、Uのとおり決定する。

T 令和5年度税制改正

個人所得課税
○ NISA制度の抜本的拡充・恒久化
・非課税保有期間を無期限化するとともに、口座開設可能期間については期限を設けず、NISA制度を恒久的な措置とする。
・一定の投資信託を対象とする長期・積立・分散投資の年間投資上限額(「つみたて投資枠」)については、120 万円に拡充する。
・上場株式への投資が可能な現行の一般NISAの役割を引き継ぐ「成長投資枠」を設けることとし、「成長投資枠」の年間投資上限額については、240 万円に拡
充するとともに、「つみたて投資枠」との併用を可能とする。
・一生涯にわたる非課税限度額を新たに設定した上で、1,800 万円とし、「成長投資枠」については、その内数として 1,200 万円とする。
・以上の措置は、令和6年1月から適用する。
○ スタートアップへの再投資に係る非課税措置の創設
・保有株式の譲渡益を元手に、創業者が創業した場合やエンジェル投資家がプレシード・シード期のスタートアップへの再投資を行った場合に、再投資分につき20 億円を上限として株式譲渡益に課税しない制度を創設する。
・スタートアップへの再投資に係る非課税措置及び課税繰延べについては、創業者は事業実態が認められれば適用が受けられるようにするほか、プレシード・シード期のスタートアップに係る外部資本要件を 1/6 以上から 1/20 以上に引き下げるなど、要件の緩和を行う。
○ 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化
・その年分の基準所得金額から3億 3,000 万円を控除した金額に 22.5%の税率を乗じた金額が、その年分の基準所得税額を超える場合には、その超える金額に相当する所得税を課する措置を講じ、令和7年分以後の所得税について適用する。
○ 特定非常災害に係る損失の繰越控除の見直し
・特定非常災害法上の特定非常災害による損失に係る雑損失及び純損失の繰越期間について、損失の程度や記帳水準に応じ、例外的に3年から5年に延長する。

資産課税
○ 資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築等

・相続時精算課税制度について、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除 110 万円を控除できることとするほか、相続時精算課税で受贈した土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合、相続時にその課税価格を再計算する見直しを行う。
・暦年課税における相続前贈与の加算期間を7年に延長するほか、延長した期間(4年間)に受けた贈与のうち一定額(100 万円)については、相続財産に加算しないこととする見直しを行う。
・教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、節税的な利用につながらないよう所要の見直しを行った上で、適用期限を3年延長する。
・結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置についても、節税的な利用につながらないよう所要の見直しを行った上で、適用期限を2年延長する。

法人課税
○ 研究開発税制の見直し
・控除率カーブの見直し及び控除率の下限の引下げ(現行:2%→1%)を行うとともに、試験研究費の増減割合に応じて税額控除の上限を変動させる制度(現行:25%→20%〜30%)を設ける。
・試験研究費のうち新たなサービスの開発に係る一定の費用について、既に有する大量の情報を用いる場合についても対象とするほか、所要の見直しを行う。
○ 企業による先導的人材投資に係る税制措置
・法人が大学、高等専門学校又は一定の専門学校を設置する学校法人の設立を目的とする法人に対して支出する寄附金であって、その設立のための費用に充てられるものを指定寄附金とする。
・特別試験研究費の対象費用に、博士号取得者又は一定の研究業務の経験を有する者に対する人件費を追加し、税額控除率を 20%とする。
○ オープンイノベーション促進税制の見直し
・発行法人以外の者から購入により取得した株式でその取得により総株主の議決権の過半数を有することとなるものを、税制の対象となる特定株式に加える。 

消費課税
○ 適格請求書等保存方式の円滑な実施に向けた所要の措置
・これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合の納税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置を講ずる。
・一定規模以下の事業者の行う少額の取引につき、帳簿のみで仕入税額控除を可能とする6年間の事務負担軽減策を講ずるほか、少額の返還インボイスについて交付義務を免除する措置を講ずる。
○ 承認酒類製造者に対する酒税の税率の特例措置の創設
・酒税の保全のために酒類業の健全な発達に資する取組を適正かつ確実に行うことについて承認を受けた酒類製造者に係る一定の酒類について、製造規模に応じて酒税を軽減する措置を講ずる。あわせて、現行の酒税の特例措置は廃止し、新たな特例措置への移行に伴う激変緩和のための経過措置を講ずる。
○ 車体課税
・自動車重量税のエコカー減税について、異例の措置として現行制度を令和5年末まで据え置くほか、据置期間後は、制度の対象となる 2030 基準達成度の下限を3年間で段階的に 80%まで引き上げる等の所要の措置を講ずる。
・自動車税・軽自動車税の環境性能割について、異例の措置として現行の税率区分を令和5年末まで据え置くとともに、3年間で段階的に引き上げる。
・自動車税・軽自動車税の種別割におけるグリーン化特例について、3年間延長する。
・メーカーの不正行為によって自動車税環境性能割等の納付不足額が発生した場合の特例について、納付不足額を徴収する際に加算する割合(現行:10%)を35%に引き上げる。

国際課税
○ グローバル・ミニマム課税への対応
・グローバル・ミニマム課税について、所得合算ルールに係る法制化を行うため、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(仮称)及び特定基準法人税額に対する地方法人税(仮称)を創設する。その際、法人税による税額と地方法人税による税額が 907:93 の比率となるよう制度を措置するとともに、対象企業の事務手続きの簡素化に資する措置を導入する。
・外国子会社合算税制について、特定外国関係会社の適用免除要件である租税負担割合の閾値引下げ等の見直しを行う。 

納税環境整備
○ 電子帳簿等保存制度の見直し
・電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度については、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことにつき相当の理由がある事業者等に対する新たな猶予措置を講ずるとともに、検索機能の確保の要件について緩和措置を講ずる。
・過少申告加算税の軽減措置の対象となる優良な電子帳簿について、その範囲を合理化・明確化する。
○ 課税・徴収関係の整備・適正化
・申告義務を認識していなかったとは言い難い高額な無申告に対し、無申告加算税の割合を引き上げる。また、連年にわたって繰り返し無申告加算税等を課される者が行う更なる無申告に課される無申告加算税等を加重する措置を講ずる。
○ ふるさと納税における前指定対象期間に係る基準不適合等への対応
・ふるさと納税の指定制度に関し、前の指定対象期間における基準不適合等の事案について、2年前にまで遡って取消事由とできることとする。

関税
○ 暫定税率等の適用期限の延長等
・令和4年度末に適用期限の到来する暫定税率(412 品目)の適用期限を1年延長する等の措置を講ずる。
○ 急増する輸入貨物への対応
・輸入申告項目に「通販貨物の該否」及び「国内配送先」等を追加する。
・税関事務管理人制度について、非居住者による届出がない場合、税関長が国内関連者を税関事務管理人として指定できる等の規定の整備を行う。

U 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置

我が国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保する。税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する。具体的には、法人税、所得税及びたばこ税について、以下の措置を講ずる。
@ 法人税
法人税額に対し、税率4〜4.5%の新たな付加税を課す。中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税額から 500 万円を控除することとする。
A 所得税
所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す。現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率を1%引き下げるとともに、課税期間を
延長する。延長期間は、復興事業の着実な実施に影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとする。
廃炉、特定復興再生拠点区域の整備、特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた具体的な取組みや福島国際研究教育機構の構築など息の長い取組みをしっかりと支援できるよう、東日本大震災からの復旧・復興に要する財源については、引き続き、責任を持って確実に確保することとする。
B たばこ税
3円/1本相当の引上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保した上で、段階的に実施する。

 以上の措置の施行時期は、令和6年以降の適切な時期とする。
 
・財務省ホームページ⇒ 令和5年度税制改正大綱(PDF)
  
 

令和4年度税制改正大綱


令和4年度税制改正大綱(税理士法関連)
令和3年12月10日 自由民主党 公明党
令和3年12月24日 閣議決定(財務省)

 
第一 令和4年度税制改正の基本的考え方

1. 〜 3. (略)

4. 円滑・適正な納税のための環境整備
(1)略
(2)税理士制度の見直し
 コロナ後の新しい社会を見据え、税理士の業務環境や納税環境の電子化といった、税理士を取り巻く状況の変化に的確に対応するとともに、多様な人材の確保や、国民・納税者の税理士に対する信頼と納税者利便の向上を図る観点から、税理士制度の見直しを行う。具体的には、税理士がその業務のICT化等を進める努力義務の創設や、税理士試験の会計学科目における受験資格の不要化、税理士法人が行うことのできる業務範囲の拡充等の措置を講ずる。
(以下略)
 
第二 令和4年度税制改正の具体的内容

一 〜 五 (略)
六 納税環境整備
1 税理士制度の見直し
(国 税)
 税理士制度について、次の見直しを行う。
(1)税理士の業務の電子化等の推進
@ 税理士及び税理士法人は、税理士の業務の電子化等を通じて、納税義務者の利便の向上及び税理士の業務の改善進歩を図るよう努めるものとする旨の規定を設けることとする。
A 税理士会および日本税理士会連合会の会則に記載すべき事項に、税理士の業務の電子化に関する規定を加えるとともに、この規定についてその会則を変更するときは、財務大臣の認可を受けなければならないこととする。
(注)上記Aの改正は、令和5年4月1日から施行する。
(2)税理士事務所の該当性の判定基準の見直し
 税理士事務所に該当するかどうかの判定について、設備又は使用人の有無等の物理的な事実により行わないこととする等の運用上の対応を行う。
(注)上記の改正は、令和5年4月1日から適用する。
(3)税務代理の範囲の明確化
@ 税務代理を行うにあたって前提となる通知等について、税務代理権限証書に記載された税理士又は税理士法人が受けることができることを明確化する等の運用の対応を行う。
A 税務代理権限証書について、税務代理に該当しない代理をその様式に記載することができることとする等の見直しを行う。
(注)上記Aの改正は、令和6年4月1日以後に提出する税務代理権限証書について適用する。
(4)税理士会の総会等の招集通知及び議決権の行使の委任の電子化
 税理士会及び日本税理士会連合会の総会等の招集通知及び議決権の行使の委任について電磁的方法により行うことが出k梨こととする。
(5)税理士名簿等の作成方法の明確化
 税理士名簿及び税理士法人の名簿、税理士又は税理士法人が作成する税理業務に関する帳簿等について、電磁的記録をもって作成すること(現行:磁気ディスク等をもって調製すること)ができることとする。
(6)税理士試験の受験資格要件の緩和
 税理士試験の受験資格について、次の見直しを行う。
@ 会計学に属する科目の受験資格を不要とする。
A 大学等において一定の科目を修めた者が得ることができる受験資格について、その対象となる科目を社会科学に属する科目(現行:法律学又は経済学)に拡充する。
(注)上記改正は、令和5年4月1日から施行する。
(7)税理士法人制度の見直し
@ 税理士法人の業務の範囲に、次に掲げる業務を加える。
 イ 租税に関する教育その他知識の普及及び啓発の業務
 ロ 後見人等の地位に就き、他人の法律行為について代理を行う業務等
A 税理士法人の社員の法定脱退事由に、懲戒処分処分等により税理士業務が停止されたことを加える。
(8)懲戒処分をうけるべきであったことについての決定制度の創設等
@ 財務大臣は、税理士であった者につき税理士であった期間内に懲戒処分の対象となる行為又は事実があると認めたときは、その税理士であったものが受けるべきであったことについて決定することができることとする。この場合において、財務大臣は、その税理士であった者が受けるべきであった懲戒処分の種類(その懲戒処分が税理士業務の停止の処分である場合には、懲戒処分の種類及び税理士業務の停止をすべき期間)を明らかにしなければならないこととする。
(注)財務大臣は、上記の決定をしたときは、遅滞なくその旨を官報をもって公告しなければならない。
A 税理士の欠格条項に、上記@により税理士業務の禁止の懲戒処分を受けるべきであったことについて決定を受けた者で、その決定を受けた日から3年を経過しないものを加える。
B 税理士の登録拒否事由に、上記@により税理士業務の停止の懲戒処分を受けるべきであったことについて決定を受けて者で、上記@により明らかにされた税理士業務の停止をすべき期間を経過しないものを加える。
(注)上記の改正は、令和5年4月1日以後にした違反行為について適用する。
(9)懲戒処分等の除斥期間の創設
 税理士等に係る懲戒処分について、懲戒の事由があったときから10年を経過したときは懲戒の手続を開始することができないこととする。
(注1)税理士法人の税理士法違反行為等に対する処分及び上記(8)@の決定について、上記と同様の措置を講ずる。
(注2)上記の改正は、令和5年4月1日以後にした違反行為等について適用する。
(10)税理士法に違反する行為又は事実に関する調査の見直し
@ 税理士法に違反する行為又は事実に関する質問検査等の対象に、税理士であった者及び税理士業務の制限又は名称の使用制限に違反したと思料される者を加える。
A 国税庁長官は、税理士法に違反する行為又は事実があると思料するときは、関係人または官公署に対し、当該職員をして、必要な帳簿書類その他の物件の閲覧又は提供その他の協力を求めさせることができることとする。
(注)上記@の改正は令和5年4月1日以後に行う質問検査等について、上記Aの改正は同日以後に行う協力の求めについて、それぞれ適用する。
(11)税理士が申告書に添付することができる計算事項、審査事項等を記載した書面に関する様式の整備
 税理士が申告書に添付することができる計算事項、審査事項等を記載した書面について、税理士の実務を踏まえたその書面に関する様式の簡素化等の見直しを行う。
(注)上記の改正は令和6年4月1日以後に提出する申告書に添付する上記の書面について適用する。
(12)税理士試験受験願書等に関する様式の整備
 税理士試験受験願書に関する様式について、その税理士試験受験願書に添付すべき写真の大きさ以外の制限を不要とする等の見直しを行う。
(13)その他所要の措置を講ずる。
(以下略)


 

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税理士の義務


《税務判決要旨》  
 提供 TKC税務研究所   
【文献番号】 60030441 
【文献種別】 判決/東京地方裁判所(第一審) 
【判決年月日】 平成 7年11月27日 
【事件番号】 平成5年(ワ)第2494号 
【事件名】 損害賠償請求事件 
【判示事項】 相続税の申告と物納の申請手続の委託を受けた税理士が過少な申告と延納手続をしたことは、債務不履行に当たるとした事例。 
【判決要旨】  相続税の申告と物納の申請手続の委託を受けた税理士は、税務の専門家として、租税に関する法令、通達等に従い、適切に相続税の申告をすべき義務を負うことはもちろん、依頼者の信頼に応えるべく、相続財産について調査を尽くした上、相続財産を適切に各相続人に帰属させる内容の遺産分割案を作成、提示するなどして、依頼者にとってできる限り節税となり得るような措置を講ずべき義務をも負うものと言うべく、相続財産たる土地の面積、利用区分、評価を誤り、相続税につき過少な申告をし、且つ延納手続をしたことは、委任の本旨に反し債務不履行に当たる。  
【関連情報】 (判決要旨文献番号)60030442 
 税理士の債務不履行により生じた損害の範囲。 
 (判決要旨文献番号)60030443 
 不完全な債務履行をした税理士の報酬請求権の存否。 
 (判例全文文献番号)28010420 
【評釈等所在情報】 〔日本評論社〕 
 品川芳宣・税研66号 
 物納申請をしなかったことに対する税理士の損害賠償責任 
 山田二郎・ジュリスト1106号 
 関与税理士に債務不履行があったとして2億円余の損害賠償責任が認められた事例 
 山崎敏彦・判例タイムズ940号57頁 
 (1)今期の主な裁判例 (2)税理士の業務上の過誤責任 契約(民法判例レビュー57) 
 品川芳宣・TKC税研情報5巻7号6頁 
 税理士の業務遂行上の損害賠償責任 物納申請をしなかった税理士の損害賠償責任(判例評釈)(租税判例研究会報告):第3回TKC租税判例研究会 実施結果報告その2 
 酒井克彦・税務弘報53巻8号65頁 
 物納依頼に反した延納申請手続と税理士の裁量(節税過誤訴訟の具体例を分析 税理士賠償責任をめぐる諸問題(第11回)):東京地裁平成7年11月27日判決を素材として 








 
(指導・助言等義務)
21.東京高裁 平成17 年 3 月 31 日判決
(原判決一部変更:賠償額 918,492,848 円、東京高裁平成16 年(ネ)105 号)
金融・商事判例1216 号6 頁、TAINS コードZ999-2033
税制改正により相続税対策としての効果がなくなったことの説明義務違反があるとされた事例
《事実の概要》
昭和63年の税制改正により、相続開始前3年以内に取得した土地建物の相続税の課税価格については、その取得価額により評価するものとされた。
被控訴銀行Yの行員Zは、この改正内容を知っていたが、控訴人Xにもその父親に対してもその説明をせず、借入金により本件不動産を購入し、賃料収入を融資息及び元金の返済に充てるという相続税対策の説明をしたにとどまった。
平成2年3月30日、父親は、Yと本件各消費貸借契約を締結して10億円の融資を受けた。平成3年8月14日、父親が死亡し相続が開始された際、Xは税制改正がなされていたことを知り、本件相続税対策が無意味であることを知った。
平成14年7月12日、Xらは本件不動産を1億7,000万円で、同月18日自宅不動産を1億3,800万円で売却し、債務の一部弁済に充てた。
控訴人Xは、被控訴銀行Yの行員Zが、融資を行う際(平成2 年3 月)、Xがこの改正内容を知らないことを認識しながらそのことを告げずに、相続税対策としての融資を受ける意思決定をさせたことが詐欺に当たるとして損害賠償を求めた。
また、不動産取得後3年経過後でなければ相続税対策が有効にならないことを知らされていれば、このような意思決定をしなかったところから、本件各消費貸借契約は錯誤に基づくものであり、無効であると主張した。
《控訴審判決の要旨》
裁判所は、被控訴銀行Yの行員Zが、Xらがこの改正内容を知らないことを認識しながらそのことをXらに告げずに、相続税対策としての融資を受ける意思決定をさせようとしたと認めるに足りる証拠はないとした。
また、錯誤の主張についても、3年の期間中に被控訴銀行Yの行員Zに対して相続税対策が有効であるとの控訴人の認識が表示されたと認めるに足りる証拠がないとした。
詐欺及び錯誤について、取り消し得べき行為について、取消権者が追認したときは、初めから有効とされるところ、控訴人Xらは追認したと認められるとした。
しかしながら、行員Zらは、本件各消費貸借契約締結までの間に、税制改正により父親が不動産取得後3年以内に死亡した場合には、相続税対策としての効果がないことを説明すべき信義則上の義務があったというべきであり、被控訴銀行Yはその事業の執行につき、行員らが第三者に加えた損害につき、使用者として不法行為による損害賠償責任があるとした
 
(忠実義務)
12.大阪地裁 平成 17 年 9 月 16 日判決
(棄却、大阪地裁平成 16 年(行ウ)107 号)TAINS コ−ド Z999-0085
 消費税等につき期限内に納付はしたが、申告書の提出を失念していた場合、5%の無申告加算税の賦課決定処分が適法とされた事例
《事実の概要》
 原告]会社の消費税等の申告について、]会社がその法定申告期限までに消費税等の納付はしたものの、その申告書の提出を失念したため、被告Y税務署長が消費税等の税額に5%の割合を乗じて計算した12億3,892万5,000円の無申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、]会社が本件処分の取消しを求めた事案である。
《判決の要旨》
(1) ]会社は、消費税等につき期限内に納付はしたが申告書の提出を失念していた場合、納付書をもって「瑕疵ある申告書」とみなして、納税申告書の提出によりその瑕疵が治癒したものと解すべき旨主張する。しかし、納税申告書と納付書とは、その機能及び法的効果が全く異なるものであるから、本件納付書をもって本件課税期間に係る消費税等の納税申告書とみることは到底できない。
(2)]会社は、期限内に納付した消費税相当額につき予納と取り扱われたことによって、無申告加算税を課すべき追加納税額がなかったことになる旨主張する。しかし、本件納付は予納として適法な納付とされたものの、本件納付だけで直ちに本件課税期間に係る消費税等の租税債務が消滅するということはないのであるから、その時点で、無申告加算税を課すべき根拠が失われたということはできない。
(3)国税通則法第66条第1項ただし書にいう「正当な理由」とは期限内申告書の提出をしなかったことについて納税者の責めに帰すべき事由がなく、制裁として加算税を課すことが不当と評価されるような場合をいうものと解するのが相当である。本件において、Xが本件課税期間に係る消費税等についてその法定申告期限内に納税申告書を提出しなかったのは、Xが同申告書の提出を失念していたということに尽きるのであって、これはXの責めに帰すべき事由に基づくものにほかならず、このように失念して期限内に納税申告書を提出しなかったXに対し行政制裁として無申告加算税を課すことは、法の趣旨に照らして何ら不当と評価されるものではない。
(注)本来の税理士の賠償責任問題ではないが、このケースは、税理士事務所が関与していないだけで申告書の提出事務は9割が税理士事務所の仕事であり、税理士が関与していたなら全額責任を負うことになるであろう。 

 
(高度注意義務)
8.最高裁 平成 15 年 9 月 9 日判決
(上告棄却、最高裁平成 12 年(受)877 号) TAINS コード Z999-0075
 税理士と保険会社が税理士職業賠償責任保険約款の特約条項の適用をめぐり保険契約により損害賠償額がてん補されるか否かが争われた事例
《事実の概要》
 消費税の課税事業者選択届出書の提出を怠ったため仕入税額控除を受けられないこととなったが、税理士はこの届出書の提出を怠っているにもかかわらず、仕入れに係る消費税の控除不足額を5,600万円と算定し還付を受けるための申告書を提出したが認められなかった。納税者は、これにより損害を被ったとして税理士に損害賠償請求訴訟を提起、その後両者は和解し、税理士は和解金4,000万円を支払い、税理士職業賠償責任保険のてん補請求を行った。これを受け保険会社は、この保険の特約条項によりてん補しない旨を主張したため訴訟となった事件である。
《判決の要旨》
 特約条項の趣旨、目的は不正な過少申告にかかわった税理士が申告に係る税額と本来納付すべき税額との差額を依頼者に賠償し、その賠償に係る損害を税理士職業賠償責任保険によりてん補されることによって生じ得る納税申告に係る不正の助長を防止しようとするところにあるとみるべきである。この特約条項の趣旨、目的に照らすと税理士の賠償すべき損害が、本件のように、課税事業者選択届出書の提出を怠ったという税理士の税制選択上の過誤により生じたものであるときに、課税事業者選択届出書の提出を前提とする依頼者に有利な課税事業者としての申告ができないことにより、形式的にみて過少申告があったとしても、特約条項の適用はないと解するのが相当であり、原判決に所論の違法はない。よって、保険会社の上告が棄却された。
(参考)
 税理士職業賠償責任保険約款2.税理士特約条項の5条2項
「当会社は納税申告書を法定申告期限までに提出せず、または納付すべき税額を期限内に納付せず、もしくはその額が過少であった場合において、修正申告、更正または決定により納付すべきこととなる本税等の本来納付すべき税額の全部もしくは一部に相当する金額につき、被保険者が被害者に対して行う支払いについてはこれをてん補しません。」 
 
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